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月桂冠総合研究所
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醸造のコクと旨みの秘密にせまる!

醸造のコクと旨みの秘密にせまる

プロテアーゼは、タンパク質を分解してコクと旨みのもととなるアミノ酸やペプチドをつくる働きがあります。日本の伝統醸造食品である日本酒、醤油、味噌などのコクと旨みには、このプロテアーゼの働きが強く関与しています。月桂冠では大学と共同で、これら醸造に使われる「麹菌」のプロテアーゼを「麹菌」を使って高生産することに成功しました。

研究テーマ 麹菌プロテアーゼ高生産技術の確立

研究目的

麹菌(Aspergillus oryzae)は、日本酒、醤油、味噌など、日本の伝統的な醸造食品の製造に不可欠な微生物です。これらの醸造食品において、麹菌のプロテアーゼが米・大豆のタンパク質を分解することにより、コクと旨みに寄与するアミノ酸とペプチドが生成されます。2005年に麹菌ゲノム解析が終了し、麹菌ゲノムには推定134種類のプロテアーゼをコードする遺伝子が存在することが示されました。これらのプロテアーゼの中には、タンパク質を分解して、血圧を降下させる活性を有する機能性ペプチドを生産することができるものもあると考えられます。

そこで本研究では、機能性ペプチドを生産できるような麹菌のプロテアーゼを麹菌で大量生産させることを目的とし、セルフクローニング(他の生物のDNAを含まないような遺伝子組換方法)によるプロテアーゼ高生産麹菌の構築と、遺伝子ターゲッティング技術(目的の遺伝子を麹菌宿主ゲノム上の特定の領域に組み込む技術)の構築に取り組みました。

その結果、合計20種類の麹菌プロテアーゼについて、麹菌で高生産させることに成功し、また、leuAという遺伝子(ロイシン要求性を相補する遺伝子)を利用することで、従来よりも高確率な遺伝子ターゲッティングが可能となりました。これらの技術を組み合わせることによって、遺伝子組換技術を用いていても、より安全で安心できる機能性ペプチドを生産できるようになると考えられます。

なお本研究は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センターの平成18年度採択「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」(研究課題名:ゲノム情報に基づく麹菌全プロテアーゼの機能解析、研究代表者:東京農工大学大学院農学研究院 教授 竹内道雄先生)として行われたものです。

麹菌プロテアーゼのセルフクローニングによる高生産

麹菌のロイシン要求性変異株(アミノ酸の一種であるロイシンが無いと生育できない株)を宿主に、ロイシン要求性を相補するA. oryzae由来leuA遺伝子をマーカーとして用いて、麹菌プロテアーゼのセルフクローニングによる高生産の検討を行いました。

まず、麹菌プロテアーゼ遺伝子pepE(DDBJ no. AB074195)について発現を試みました。プロモーター(遺伝子を発現させるために必須のDNA配列)としては、麹菌のsodMプロモーターを用いて、プロテアーゼPepE高生産株の構築を行いました。得られたセルフクローニング株は、液体培養条件において、菌体外へ数g/L-brothレベルでPepEプロテアーゼを生産しました(図1)。

図1 麹菌プロテアーゼPepEの高生産
図1 麹菌プロテアーゼPepEの高生産

図の説明:親株(C)とセルフクローニング株(SC)No.1-3を、GPY液体培地で、30度、3日間培養し、その上清100mlを濃縮して、1レーンにアプライし、SDS-PAGEで分離した。Mは分子量マーカー、オレンジの矢印はPepEプロテアーゼをそれぞれ示す。No.1-3株は多量のPepEを生産することが明らかとなった。

また、pepE以外の麹菌プロテアーゼ遺伝子についても発現を検討しました。具体的には、下記1.と2.を中心に検討しました。

  1. sodMプロモーターのみならずhlyA、glaA、amyAおよびpdiAプロモーターも検討
  2. 培養条件として液体培養培養のみならず固体培養も検討

1.と2.を組み合わせた結果、アルカリプロテアーゼ(DDBJ no. X54726)、中性プロテアーゼI(DDBJ no. AF099904)、酸性プロテアーゼPepA(DDBJ no. D13894)、中性プロテアーゼ2種類、デューテロリシン、カルボキシペプチダーゼ4種類、ジペプチジルアミノペプチダーゼ、ジペプチジルペプチダーゼ、オリゴペプチダーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、アミノペプチダーゼI、プロリルアミノペプチダーゼ、aspartyl protease 2種類およびAorsin(DDBJ no. AB084899)の合計19種類のプロテアーゼについて、セルフクローニングによる高生産に成功しました。

相同組換えによる麹菌遺伝子発現系の開発

麹菌のタンパク質遺伝子発現系の構築において、導入する遺伝子が麹菌宿主のゲノム中の特定の座位に相同組換えにより組み込まれていることが望ましいといわれております。しかし、麹菌では、一般に相同組換えよりも非相同組換えのほうが高頻度で起こり、その制御は重要な課題でした。

そこで、遺伝子相同組換え株構築の予備試験として、麹菌ロイシン要求性変異株に、leuA遺伝子を導入し、相同組換えが起こる確率について検証しました。その結果、得られた形質転換株11株中5株において、相同組換えが起こっていることが明らかとなりました(図2)。

図2 leuAマーカーのみを導入した形質転換体のゲノムサザン解析
図2 leuAマーカーのみを導入した形質転換体のゲノムサザン解析

図の説明:バンドが1本のみ検出された株では、leuAマーカーが変異型leuA遺伝子領域へ相同組換えにより挿入され、他方バンドが複数見られる株では非相同組換えで挿入されていると推定された。具体的には、HindIIIおよびPstI処理で、親株(C)と同じ位置に共に1本のバンドのみ観察される株(図中の○印)には相同組換えが起きたと推察され、その割合は11株中5株であった。

この結果から、leuA遺伝子を用いることで、非相同組換えが起こりにくくなるligD遺伝子破壊株などの特殊な宿主を用いることなく、高確率で遺伝子発現カセットを染色体上のleuA座位に導入可能なことが示されました。次に、遺伝子発現カセットを、leuA遺伝子の中間へ挿入したDNA断片を麹菌ロイシン要求性変異株へ導入しました(図3)。得られた形質転換株における遺伝子発現カセットの挿入領域をサザン解析により確認したところ、形質転換株10株のうち7株において、相同組換えが起こりました(図4)。これは、上述したleuA遺伝子のみの導入における相同組換え効率とほぼ同等の頻度でした。つまり、leuA遺伝子を用いた遺伝子発現系を利用することで、容易に相同組換えによる目的遺伝子発現麹菌を構築することが可能になりました。

図3 麹菌相同組換え技術の開発(モデル図)
図3 麹菌相同組換え技術の開発(モデル図)
図4 leuAを用いた新規セルフクローニング相同組換え技術
図4 leuAを用いた新規セルフクローニング相同組換え技術

図の説明:バンドパターンから得られた10株のうち7株において(2)タイプの相同組換え(図中の○印)が起きたと推定された。

まとめ

本研究では、ロイシン要求性相補マーカーleuAを利用した、麹菌セルフクローニング発現系を構築し、合計20種類の麹菌プロテアーゼについて高生産に成功しました。また、ロイシン要求性相補マーカーleuAを利用することで、目的遺伝子を相同組換えによって宿主麹菌へ高確率で導入できるようになりました。本成果を用いれば、特定のプロテアーゼの高生産のみならず、そのプロテアーゼを用いた機能性ペプチド、例えば血圧降下ペプチド(「酒『粕』も百薬の長 酒粕から血圧を下げるペプチド」を参照)などをより効率的に生産することが可能となります。

参考文献

  1. Isolation of a novel promoter for efficient protein production in Aspergillus oryzae.
    Ishida H, Hata Y, Kawato A, Abe Y, Kashiwagi Y
    Biosci Biotechnol Biochem., 68:1849-1857(2004)
  2. Isolation of a novel promoter for efficient protein expression by Aspergillus oryzae in solid-state culture.
    Bando H, Hisada H, Ishida H, Hata Y, Katakura Y, Kondo A
    Appl Microbiol Biotechnol., 92:561-569(2011)

学会発表

  • 麹菌ポストゲノム解析を支援するAspergillus nidulans発現用プラスミドの構築
    第7回糸状菌分子生物学カンファレンス(2007)
    ○石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、小出芳直、竹内道雄
  • 麹菌(A. oryzae)のセルフクローニングによる物質生産(1)麹菌アルカリプロテアーゼの高生産
    日本農芸化学会大会(2008)
    ○石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、小出芳直、竹内道雄
  • 麹菌(A. oryzae)のセルフクローニングによるプロテアーゼ生産
    第8回糸状菌分子生物学コンファレンス(2008)
    ○石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、小出芳直、竹内道雄
  • 麹菌(A. oryzae)のセルフクローニングによるプロテアーゼ生産(2)~発現プロモーターの選択~
    農芸化学会大会(2009)
    ○石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、小出芳直、竹内道雄
  • 麹菌Aspergillus oryzae由来プロテアーゼの麹菌での大量生産
    日本生物工学会大会(2010)
    ○坂東弘樹、石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、天野仁、竹内道雄
  • 麹菌Aspergillus oryzae由来プロテアーゼの麹菌での大量生産
    第10回糸状菌分子生物学コンファレンス(2010)
    ○坂東弘樹、石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、天野仁、竹内道雄
  • 麹菌Aspergillus oryzae由来プロテアーゼによる機能性ペプチド生産
    農芸化学会大会(2011)
    ○坂東弘樹、石田博樹、秦洋二、楠本憲一、山形洋平、天野仁、竹内道雄

シンポジウム

  • 麹菌のセルフクローニングによるプロテアーゼの高生産
    生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」合同成果発表会、麹菌ゲノム科学の産業への利用(2009)
    ○石田博樹
  • 麹菌プロテアーゼのセルフクローニングによる高発現、酵素剤化及び機能性ペプチド生産への応用
    日本食品科学工学会、生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」(2010)
    ○石田博樹、坂東弘樹、秦洋二

特許

  • 特許第5344857号:糸状菌プロテアーゼの生産方法
    石田博樹、秦洋二、山形洋平、小出芳直、竹内道雄
  • 特許第5759132号:糸状菌ペプチダーゼの生産方法
    坂東弘樹、石田博樹、秦洋二

(掲載日:2013年7月3日)

(改訂日:2018年2月26日)

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