月桂冠総合研究所

研究から生まれた商品開発

白髪を黒髪メラニンのもとで黒く色づける~着色成分(ジヒドロキシインドール)~

月桂冠総合研究所は、清酒醸造において重要な働きをする麹菌の基礎と応用に関する研究を進めてきました。1990年代後半から麹菌の有用遺伝子の解析を行う中で、酒粕に黒い斑点を生じる「黒粕現象」の原因として、麹菌の固体培養(米麹など)で特異的に発現する新規麹菌チロシナーゼ遺伝子(melB)を単離しました。黒粕の黒い斑点は、この麹菌チロシナーゼによりつくられた黒色色素メラニンでした(「酒粕は色白がお好み?麹菌がつくるチロシナーゼを発見」を参照)。

白髪を黒く色づける
白髪を黒く色づける

一方、近年、美容を含むQOL(Quality of Life)に関心が高まる中で、毛髪の色素であり、紫外線で誘導される皮膚の着色色素でもある黒色色素メラニンと、メラニン生成酵素であるチロシナーゼに関する研究が盛んに進められています。今回月桂冠総合研究所は、新規麹菌チロシナーゼの安定供給を達成し、さらに麹菌チロシナーゼを用いた黒髪メラニンのもとである着色成分(ジヒドロキシインドール)の工業生産に世界で初めて成功しました。この着色成分は、「花王株式会社」との共同研究により、新しいタイプの白髪ケアの原料ととして利用されています。

技術の応用:黒髪メラニンのもと:着色成分(ジヒドロキシインドール)を利用した新規染毛料の開発

黒色色素メラニンは、低分子化合物が連なった高分子化合物であるため、毛髪などの被染色物に浸透できず、そのままでは毛髪などの被染色物を染色することができません。一方、低分子化合物である着色成分(ジヒドロキシインドール)は、毛髪表面付近で集合体を形成しながら、表層(キューティクル)に定着する性質があり、染毛料としての利用価値があると考えました(図1)。

図1 メラニンと黒髪メラニンのもととの違い
図1 メラニンと黒髪メラニンのもととの違い

長年の毛髪研究から独自の染毛技術をもつ「花王株式会社」との共同研究を通じて、着色成分(ジヒドロキシインドール)生産技術の開発、及び着色成分(ジヒドロキシインドール)を染毛料用途として安定かつ効果的に利用する方法を検討しました。その結果、植物原料由来の黒髪メラニンのもとで簡単に白髪を黒く色づける商品として、2009年に花王より「サクセス ステップカラー」が発売されました。この共同研究の成果は、フジサンケイビジネスアイ第24回独創性を拓く先端技術大賞特別賞(2010年)および公益社団法人日本生物工学会から技術賞(2011年)を受賞しています。更にはお風呂の中で使える染毛料として2018年に「リライズ 白髪用髪色サーバー」へも展開されています。開発した染毛料は、1.毛髪表面付近に黒髪メラニンのもとが集合体を形成しながら、キューティクルに定着して白髪を徐々に黒く色づける、2.毛髪には直接作用しないため、毛髪や頭皮へのダメージが少ない、という特徴があります(図2)。

図2 開発した染毛料の特徴
図2 開発した染毛料の特徴

おわりに

清酒醸造において古くから使われてきた醸造微生物を利用することで、麹菌チロシナーゼによる黒髪メラニンのもとである着色成分(ジヒドロキシインドール)を工業生産することに成功しました。醸造微生物は、長年の食経験から高い安全性を有すると考えられるため、醸造微生物を利用して生産した有用物質は、幅広い分野で活用でき、人々のQOL向上に大いに役立つと期待されます。
本研究は、「花王株式会社」と月桂冠の異業種の技を活かし合いながら、新しい染毛料の商品化につながりました。清酒醸造では「黒粕」の原因として悪モノであった麹菌チロシナーゼを白髪ケアの技術に応用するという発想の転換は、まさに異業種コラボレーションの賜物だと言えます。今後も、異業種交流などを活用しながら柔軟な発想で研究開発に取り組み、豊かな生活文化の実現に貢献していきたいと考えています。

謝辞

本研究は花王株式会社との共同研究であり、関係各位に深く感謝申し上げます。

着色成分(ジヒドロキシインドール)を使用した商品へのリンク

(掲載日:2013年4月18日)
(改訂日:2018年5月11日)