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酒「粕」も百薬の長 酒粕から血圧を下げるペプチド

「酒は百薬の長」と言われるように、お酒には飲むのを楽しみ、酔いをもたらす役割以外に、様々な薬理・薬効があると信じられてきました。中でも日本酒は、酵母と麹菌の2つの微生物の複雑な代謝を経て得られる発酵産物であることから、「百薬の長」となる成分がたくさん含まれていると考えられています。月桂冠総合研究所では、日本酒の薬用効果との関連を実証するために、清酒とその副産物を対象に、長年にわたって生理活性の探索を行ってきました。この度、酒粕中に血圧上昇を抑制するペプチドを発見しましたので報告します。

研究テーマ 酒粕からの血圧上昇抑制物質の探索

【実験目的】

生体内の肺や血管内皮細胞などに存在するアンジオテンシン変換酵素(以下ACE)は、レニン・アンジオテンシン系やブラジキニン系において血圧上昇を制御する主要な酵素であることが知られています。ACEの酵素活性を阻害すれば血圧上昇が抑制できるため、様々な食品からACE阻害物質の単離が試みられています。
そこで我々は、血圧降下作用の指標としてアンジオテンシン変換酵素阻害活性を用いて、清酒およびその副産物の中から血圧抑制物質を探索しました。
研究の結果、清酒の濃縮エキス分にACE阻害活性が認められました。また、清酒の副産物である酒粕については、更に強いACE阻害活性を発見することが出来ました。

【実験結果および考察】

ACE阻害物質の検索

酒粕のACE阻害物質を検索するに当たり、酒粕の有効成分を遊離させて可溶化するために、蛋白質加水分解酵素による分解条件を検討しました。市販の食品加工用酵素15種類を用いてそれぞれ分解反応を行ったところ、サモアーゼ反応物の上清において最も強いACE阻害活性が認められました。活性成分の精製を進めた結果、清酒および酒粕からそれぞれ3種類のACE阻害ペプチドが単離同定されました。その中でも酒粕分解物から得られたIle-Tyr-Pro-Arg-Tyrには特に強い活性(IC50値4.1μM)が認められました(表1)。

表1 ACE阻害ペプチドの配列と活性(IC50値)

ペプチド配列 由来 IC50値(μM)
Phe-Trp-Asn 酒粕分解物 18.3
Ile-Tyr-Pro-Arg-Tyr 4.1
Arg-Phe 93.0

ラットでの血圧上昇抑制試験

高血圧自然発症ラット(SHR)を用い、酒粕のサモアーゼ分解物(以下、酒粕分解物)の経口投与による血圧降下作用を検討しました。サンプル溶液をラットに単回経口投与して、数時間おきに血圧を測定しました。体重1kgあたり酒粕分解物が1gとなるように投与したところ、4時間、6時間後の収縮期血圧はそれぞれ15mmHg、32 mmHg降下し、投与前と比較していずれも有意差が認められました。これに対し水のみを投与したコントロール群では、投与前に較べて血圧の有意な低下は見られませんでした(表2)。

表2 酒粕サモアーゼ分解物単回投与によるSHRの血圧の変化

  投与直前 投与4時間後 投与6時間後
水のみ 218±15 215±16 203±14
酒粕分解物 224±11 209±17* 192±21**

各群n=10、投与量は1000mg/kg、*p<0.05、**p<0.01        (mmHg)

ヒト血圧試験

収縮期血圧(最大の血圧)が130~179 mmHg、または拡張期血圧(最小の血圧)が85~109 mmHgの範囲にある、軽度ないし中程度の高血圧者を対象に被験者(他のサプリメントや医薬品を常時服用している者は除外)を選抜し、酒粕由来ペプチドを2000mg/日、30日間服用してもらいました。血圧の測定は、酒粕由来ペプチドの摂取期間30日間に、摂取開始前の2週間と摂取終了後の2週間を加えた合計8週間で行いました。
摂取開始4週間後において、収縮期血圧と拡張期血圧のいずれも、摂取前に比べて有意に低下しました。さらに拡張期血圧では、摂取終了1週間後まで有意な低下作用が持続しました。これによって、モニター全体の平均値は、収縮期、拡張期血圧とも、正常値とされる90~139 mmHgあるいは90 mmHg以下の範囲内にまで下がることが明らかになりました。(図1

図1 酒粕ペプチドのヒト血圧試験

酒粕由来ペプチドは、医薬品のような急速な血圧降下作用ではなく、1~2ヶ月にわたって緩やかに血圧を低下させる作用を示し、服用終了後も一定期間効果の残存性が認められました。したがって、酒粕由来ペプチドにはACE活性を阻害する直接的な働き以外に、血圧上昇を防止する体質改善のような働きに関係すると考えられます。 現在市販されているACE阻害ペプチドには、動物由来のものが多数を占める中で、酒粕由来ペプチドは、植物(米蛋白質)由来です。また、調味料風の良好な風味を持っています。酒粕由来ペプチドが、血圧上昇の防止に関係する機能性食品素材として、幅広い食品に利用されることを期待しています。

この酒粕由来ペプチドの研究は、日本新薬食品開発研究所との共同研究による成果です。

【学会発表】

  • SHRラットに対する清酒、及び副産物の降圧効果、農芸化学会、1993
    斉藤義幸、○中村圭子、川戸章嗣、今安聰
  • 清酒、および酒粕由来ACE阻害ペプチドの構造と活性、農芸化学会、1993
    ○斉藤義幸、中村圭子、川戸章嗣、今安聰

【論文】

  • 斎藤義幸、中村圭子、川戸章嗣、今安聰、清酒、および副産物中のアンギオテンシン変換酵素阻害物質、日本農芸化学会誌、66(7)、1081-1087(1992)
  • 斎藤義幸、清酒と副産物の新しい生理機能、87(10)、705-710(1992)
  • Saito, Y., Wanezaki, K., Kawato, A. and Imayasu, S., Structure and Activity of Angiotensin ⅠConverting Enzyme Inhibitory Peptides from Sake and Sake Lees. Biosci. Biotech. Biochem., 58(10), 1767-1771(1994).
  • 大浦新、入江元子、秦洋二、高血圧を予防する新素材「酒粕ペプチド」、食品と開発、41(1)、59-61(2006)

【参考文献】

  • Saito, Y., Wanezaki, K., Kawato, A. and Imayasu, S., Antihypertensive effects of peptide in Sake and its by-products on spontaneously hypertensive rats. Biosci. Biotech. Biochem., 58(5), 812-816 (1994).

(掲載日:2006年3月15日)

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