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遺伝子が語るお酒をつくる酵母の気持ち

月桂冠総合研究所では、独立行政法人・酒類総合研究所と共同で、DNAマイクロアレイという最新技術を用い、清酒もろみにおける酵母の代謝活動を遺伝子レベルで解析することを試みています。酒造りのような長年の経験に培われてきた伝統技術を遺伝子レベルで解析することにより、清酒醸造のメカニズムを科学的に解明するだけでなく、新しい醸造技術の開発にもつながると期待しています。


研究テーマ 清酒醸造への酵母DNAマイクロアレイ技術の応用

【実験目的】

清酒にはエタノールだけでなく有機酸や低分子エステル等の様々な成分が含まれており、その調和により独特の香味が形成されています。これら成分の多くは清酒酵母の代謝により生成するため、酵母の代謝活動を理解して適切に管理することが、酒造りにおいては重要となります。
一般的に酵母のような細胞の代謝活動は、ひとつ一つの遺伝子の働きの集合であると言えます。つまり酵母がもつ遺伝子の微妙な働き具合の違いが発酵に影響し、最終的に清酒の香味を決定します。これまでに清酒の香味に関与する多くの遺伝子が発見されて、その一部は優良酵母の育種/選抜に応用されています(参考文献1~4)。しかし、「発酵」とは非常に多くの遺伝子が連携する複雑なプロセスであり、個々の遺伝子解析からは清酒醸造の全体像や酒質への影響を明らかにすることは難しいと考えられます。
そこで我々は酵母DNAマイクロアレイを用い、清酒もろみにおける酵母全遺伝子の経時的な発現挙動を調べ、清酒酵母の代謝活動について網羅的に解析しました(図1)。

図1 なぜ清酒醸造にDNAマイクロアレイなのか?
図1 なぜ清酒醸造にDNAマイクロアレイなのか?図1 なぜ清酒醸造にDNAマイクロアレイなのか?
図1 なぜ清酒醸造にDNAマイクロアレイなのか?図1 なぜ清酒醸造にDNAマイクロアレイなのか?

【実験結果および考察】

代表的な清酒酵母(きょうかい7号)を用いて小仕込みを実施し、経時的にもろみをサンプリングしました。そこから抽出した酵母total RNAを鋳型にし、33P-dCTPを取り込ませながらcDNAプローブを合成しました。この放射能ラベル化したプローブをResearch Genetics社のGeneFilters(メンブレン型DNAアレイ)とハイブリダイズし、全ORFの発現変化を定量後、それをデータベース化しました。

得られたデータベースに対し、相関解析・クラスタリングなどの統計処理や発現プロファイルの比較を行った結果、以下のことが分かりました。

1. 図2)にはGeneFilters上に検出されたスポットを示しています。発酵初期と後期では、それぞれのスポット強度は大きく異なり、発酵の進行に伴い、酵母の遺伝子発現のパターンはダイナミックに変化することが分かりました。すなわち酵母は清酒もろみ中で、発酵の時期にあわせて、様々な遺伝子を使い分けていることが推察されます。

2. そこで各発酵期間で発現する遺伝子のプロファイルを比較してみました(図3、4)。発現プロファイルの相関係数から、発酵期間は初期(留2) 中期(留4~10) 後期(留13以降)の大きく3フェーズに分けることができました。

3. 次に各フェーズにおける香味成分の変化を解析しました。香気成分や有機酸においては、先ほどの発酵フェーズに応じて含有量が変化することが明らかとなりました。

遺伝子の発現パターンが切り替わることにより、お酒の香味成分も大きく変化することがわかりました。 以上の結果から、清酒もろみにおいて清酒酵母は、発酵時期に合わせて遺伝子の発現を大胆に変化させていることがわかりました。そして遺伝子の発現パターンを切り替えることにより、細胞の代謝活動が大きく変化し、その結果、清酒の香味成分である香気成分や有機酸の生成量が増減します。すなわち、清酒の香味成分を制御するためには、その酵母の代謝活動を理解し、適切な遺伝子発現パターンになるよう管理する必要があるわけです。
DNAアレイデータとは、「酵母が何を作ろうとしているのか」を遺伝子発現の面から示した従来にはない新しいデータといえます。今後さらにアレイデータから「酵母の気持ち」を汲み取る努力をし、清酒醸造の全ぼう解明に挑戦し続けます。

【学会発表】

  • 清酒醸造への酵母DNAマイクロアレイ技術の応用、生物工学会、2004
    ○佐原弘師、川戸章嗣、下飯仁(酒総研)
  • SED1プロモーターを利用した酢酸イソアミル高生産酵母の作製、農芸化学会、2002
    ○佐原弘師、浪瀬政宏、水津哲義、川戸章嗣、杉並孝二、安部康久、下飯仁、伊藤清
  • 清酒醸造における酵母遺伝子発現の経時的変化の解析(第二報)、生物工学会、2001
    ○佐原弘師、浪瀬政宏、水津哲義、川戸章嗣、杉並孝二、安部康久、下飯仁、伊藤清
  • 清酒醸造における酵母遺伝子発現の経時的変化の解析、農芸化学会、2001
    ○佐原弘師、川戸章嗣、下飯仁、伊藤清

【論文】

  1. K.Fukuda et al. J.Ferment.Bioeng.,85,101(1998)
  2. T.Fujii et al. Appl.Environ.Microbiol.,60,2786(1994)
  3. 相川ら、醗酵工学会誌、70,473(1992)
  4. E.Ichikawa et al. Agric.Biol.Chem.,55,2153(1991)

(掲載日:2004年12月1日)

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