月桂冠総合研究所
研究内容
お酒の研究

業界初! 3つのゼロ! 月桂冠アルコールフリー!

日本酒のアルコール分はビールの約3倍もあります。そのため、満足できるノンアルコール日本酒を開発するのは困難を極めました。開発成功のカギとなったのは、思い切った発想の転換でした。日本酒からアルコール分を除くという「引き算」の発想から、苦味・辛味・渋味などの成分を加えていくという「足し算」の発想にアプローチを転換したことで、商品化に成功しました。特に成功要因となったのは、「香り」でした。また、大吟醸酒の香味をイメージした日本酒テイスト飲料についても商品化しました。

業界初! 3つのゼロ! 月桂冠アルコールフリー!

背景

2002年6月の道路交通法改正による飲酒運転の厳罰化に伴い、ノンアルコール飲料の開発が活発となりました。当時、いくつかのノンアルコール飲料が発売されていましたが、すべてアルコール1%未満を含有しており、大きな市場を形成するには至りませんでした。しかし、2009年に業界初のアルコール分0.00%のビールテイスト飲料が開発されたのをきっかけに、ビールテイスト飲料を中心としたノンアルコール飲料市場が急拡大しました。

引き算の発想による開発失敗の連続

月桂冠では、2003年頃、社内プロジェクトでアルコール分1%未満の日本酒テイスト飲料の開発を進めていました。日本酒からアルコールを除いたり、酒粕を利用したり、さまざまな角度から検討を重ねました。しかし、試作品は、テイスト、保存性に大きな問題がありました。日本酒からアルコールを除くなど引き算の発想に限界があり、やむなく開発は一時中断しました。

アルコール量をなくして、「アルコール0.00%」と「日本酒らしさ」を実現できるか?

一般的な日本酒のアルコール分は15%であり、一般的なビールのアルコール分5%の3倍に相当します。日本酒風味で「アルコール分0.00%」を実現するには、ビールの3倍量のアルコールをなくして、日本酒らしさを再現する必要がありました。また、ビールの原料である麦芽やホップ、炭酸は、それ自体がビールの風味を有しているのに対し、日本酒の原料である米は、その香味が直接日本酒の風味を想起させるものではありません。まずは日本酒におけるアルコールのテイストに対する影響を明らかにするため、日本酒とアルコールを蒸留で除いた日本酒について、味覚センサーで解析しました。図1で示されるように、日本酒からアルコールを除いてしまうと、多彩な味がなくなってしまうことが分かります。すなわち、アルコールを0.00%にして、日本酒らしさを再現することの難しさを、開発の途上で痛感しました。

図1 日本酒におけるアルコールのテイストへの影響(味覚センサー)
日本酒におけるアルコールのテイストへの影響(味覚センサー)

日本酒ベースのリキュール開発で得たノウハウから着想した「足し算」の発想へ

ビールテイスト飲料の市場拡大を受け、2011年に『アルコール分0.00%の日本酒テイスト飲料』を商品化するという社内プロジェクトが再び立ち上がりました。過去の「引き算」の発想による商品開発のデータを精査し、今までの発想では商品化できないことが分かっていました。2011年時には、日本酒をベースとしたリキュール飲料の開発ノウハウが蓄積しており、その中から『アルコール分0.00%の日本酒テイスト飲料』に「足し算」の発想への変換を着想しました。具体的には、日本酒の成分組成を参考に、様々な原材料を組み合わせて、一から日本酒テイスト飲料を設計しました。しかし、試作品の市場調査では、薄いりんごジュースやスポーツドリンクに例えられるなど、日本酒らしいとの評価には至りませんでした。日本酒の香味は、甘味・酸味・辛味・苦味・渋味といった成分が複雑にからみ合い、旨みや香りも一体となって構成されています。「日本酒らしさ」が何であるのかを再度考えなければならない結果となりました。

図2 引き算から足し算のアプローチへの発想転換
引き算から足し算のアプローチへの発想転換

最大の壁となった「日本酒らしさ」とは?開発現場が宴会の雰囲気に?

「日本酒らしさ」が何であるのか?開発メンバーで議論を重ねた結果、2つの仮説に至りました。1つは、アルコールによる刺激感、もう1つは、香りです。アルコールによる刺激感については、様々な原料からジュースでは用いられない苦味・辛味・渋みなどの成分に注目しました。その結果、ある原料により、口の中に残る苦味をアルコールによるのどへの刺激感として再現することができました。香りについても試行錯誤を重ねました。ジュース、リキュールでは香料を入れてフルーツ感などを再現するので、当然「日本酒フレーバー」の香料が必要になります。しかし、汎用されている日本酒フレーバーは、良い香りが立ち、使用するとりんごジュースやスポーツドリンクのような香りになり、満足いかない味わいとなりました。日本酒の香りは、良い香りだけでなく、それ以外の香りも含まれる複合的な成分から成ります。このそれ以外の香りを試行錯誤で検討した結果、日本酒らしい香りを再現できる香料にたどり着き、開発現場は宴会のような香りが漂う空間となっていました。
アルコールによる刺激感と香りを最適化することで、本格的な日本酒テイスト飲料が完成しました。

日本酒テイスト飲料の評価

試作した日本酒テイスト飲料と実際の日本酒のテイストについて、味覚センサーで解析しました。図3に示されるように、日本酒テイスト飲料は、日本酒に比べ「アルコール感」や「コク」がない分、甘みやキレを高めることで、味を補う結果となっていることがわかりました。

図3 試作した日本酒テイスト飲料と日本酒の比較(味覚センサー)
試作した日本酒テイスト飲料と日本酒の比較(味覚センサー)

次に、お客様の評価を確認しました。図4に示すように、味わいについては7割、香りについては8割のお客様が「日本酒らしい」という評価をされています。またビールを10点としたとき、ビールテイスト飲料が約6.6点だったのに対し、日本酒を10点としたときこの日本酒テイスト飲料は6.2点と市販のビールテイスト飲料に迫る高い評価が得られました。

図4 試作した日本酒テイスト飲料の市場調査結果
試作した日本酒テイスト飲料の市場調査結果

当社では、このノンアルコールの日本酒テイスト飲料(アルコール分0.00%)を、2014年9月、「月桂冠フリー」(245mLびん)として全国発売しました。

業界初の3つのゼロ(アルコール0.00%、カロリーゼロ、糖質ゼロ)の日本酒テイスト飲料へ

「月桂冠フリー」は、本格的な日本酒テイスト飲料として好評を得てきました。一方で、発売以来、お客様からは「カロリーを低くしてほしい」「糖質を抑えてほしい」などの声も寄せられており、そのご要望にお応えしなければならないと考えました。カロリーゼロと糖質ゼロの本格的なノンアルコールの日本酒テイスト飲料を実現するためには、テイストのふくらみと厚みに寄与している糖類を除かなければならず、テイストのバランスを崩すことになることが懸念されました。糖類の代替として人口甘味料を使用してみましたが、味がシャープになり、糖類の持つふくらみのある甘味を失うことになりました。試行錯誤を繰り返し、ようやく適した天然甘味料を見い出すことができました。この天然甘味料は複数の甘味成分を持つため、ふくらみのある甘味を再現することができました。さらに、副次的な効果として、酸味のカドをとる、つまり、特定の成分だけを強く感じさせず味のバランスをくずさないようにすることもわかりました。こうして、日本酒業界初の3つのゼロ(アルコール0.00%、カロリーゼロ、糖質ゼロ)の日本酒テイスト飲料の開発に成功しました。
これらの開発の結果、当社は「月桂冠NEWフリー」(245mLびん)を2015年9月、全国で発売しました。日本酒らしい香りと味わいを持ちながら、アルコール分「0.00%」で、さらにカロリーを「0kcal」(※1)、糖質を「0g」(※2)に抑えた商品です。独自の技術で、日本酒の複雑で奥深い香味を再現し、原料配合を工夫することで3つのゼロを実現したものです。
また、大吟醸酒の香味をイメージした日本酒テイスト飲料についても開発を行い、「スペシャルフリー」(245mLびん)を2019年8月、全国発売しました。

  1. 栄養表示基準に基づき、5kcal(100mL当たり)未満をカロリー0(ゼロ)と表示しています。
  2. 栄養表示基準に基づき、糖質0.5g(100mL当たり)未満を糖質0(ゼロ)と表示しています。

おすすめの飲み方は?

飲用シーンとしては、アルコールを控えたい時、またはアルコールの総摂取量を抑えたい時、休肝日としてアルコールを摂取しないと決めている時などにおすすめです。冷やしてまたは常温、燗まで幅広い温度帯でお楽しみいただけます。月桂冠総合研究所員のおすすめは、日本酒(特に"月桂冠 上撰")と「月桂冠NEWフリー」を1対1で割る飲み方です。

「月桂冠NEWフリー」は、販売を終了しました。