昭和初期の酒造り、京都・東京を映す16ミリフィルム

月桂冠PR映画第一号『選ばれた者』、昭和6年(1931)制作 夏川静枝さん主演

昭和初期の月桂冠PR映画『選ばれた者』(1931年=昭和6年、京都日活撮影所制作、16ミリフィルム、42分)。1927年(昭和2年)に完成した冷房付鉄筋コンクリートの酒蔵「昭和蔵」、日本で初めての本格的びん詰工場(1931年竣工)を通して造られる月桂冠の品質の高さ、安全性を訴えたもので、酒造りの記録としても貴重なフィルムです。月桂冠はすでに明治時代(1909年)、酒造研究所を設立し酒造りに最新技術を導入、「防腐剤ナシのびん詰酒」を開発しました。

映画には、京都四条河原町界隈のにぎわい、円山公園の花見、東京・京橋のネオンサインなど、当時の社会風俗の一端が描かれています。

岡田嘉子さん、栗島すみ子さんらとともに三大女優として人気を得た、夏川静枝さん(右)の若かりし頃も見逃せません。

昭和蔵での酒造りのようす。鉄筋コンクリート造りの昭和蔵は、紀州藩伏見屋敷跡(京都市伏見区片原町)の一角に、1927年竣工しました。アメリカ・ヨーク社製の冷凍機を備え、冷房による室内温度の管理を可能にしました。

木製の酒桶を天日に干すため、蔵の前庭は広いスペースがとられていました(昭和蔵構内)。

昭和蔵構内のドーム型びん詰工場(1931年=昭和6年竣工、建物は現存)での作業。樽詰が6割を占めていた当時、年間1万石近いびん詰酒を出荷していました。

商品を詰めた木函を貨車に積み込む(国鉄・桃山駅)。海路にかわり鉄路で、首都圏など全国に販売を広げていった。

京都・円山公園の枝垂れ桜。

京都・嵐山での舟遊びの様子。

東京・京橋のネオン看板。販路の拡大に伴い、各地にネオンサインを掲出していきました。

東海道線六郷川(現・多摩川)鉄橋の河川敷に、一升びんをかたどったネオン付きの広告塔が、1930年(昭和5年)出現しました。その後、戦中の灯火管制のもと、撤去の憂き目を見ましたが戦後復活、1952年(昭和27年)着工したとの記録があります。
地上36メートル(下部の台座は高さ7.8メートル、避雷針のついた塔上は4.2メートル)で、鉄骨に板を張った塔にネオンを取り付けたものです。昭和30年代まで、鉄道の乗客に東京着を告げる目印となっていました。

(2003年10月29日掲載)