PROJECTプロジェクト秘話

日本酒の可能性に挑む

2019年3月25日、月桂冠が発売した日本酒「THE SHOT」は、日本酒をもっと身近に——という新たなコンセプトから生まれた、これまでにない商品です。発売から3年目を迎えた今、このプロジェクトに携わった3人の若手社員が、「THE SHOT」の開発秘話を語ります。

※写真内の商品パッケージは取材当時のものです。

MEMBER

  • 近畿営業部 近畿第1支店
    (開発当時は営業推進部マーケティング課)
    伊藤 慎也

    入社11年目。「THE SHOT」プロジェクトを主幹として牽引。コンセプトづくりや味わいの設計などに深く関わる。好きなアイテムは「艶めくリッチ<本醸造>」。

  • 総合研究所伊出 健太郎

    入社8年目。自らの研究成果である蔵付き酵母<GW-02>で「THE SHOT」の新ラインナップの開発に携わる。好きなアイテムは「鮮やかジューシー<純米酒>」。

  • 営業推進部 広告宣伝課吉川 俊也

    入社10年目。東京で営業を経験、総務部人事課を経て広告宣伝課に異動、最初に手掛けた仕事が「THE SHOT」の販促プロモーション。好きなアイテムは「華やぐドライ<大吟醸>」。

STORY 01

新たなターゲットが
手に取りやすい日本酒を

近年お酒の市場環境や飲まれ方が大きく変化している中、業界はもちろん、月桂冠にとっても「新しい世代に受け入れられる日本酒」の開発は至上命題。「THE SHOT」発売からさかのぼること3年、当時マーケティング課に所属していた伊藤が受け持ったプロジェクトが、まさに新たなターゲットに向けた日本酒の開発でした。

伊藤 慎也

伊藤「日本酒を飲む人の50%以上が60〜70代という現状で、もっと若い世代に日本酒の魅力を知ってほしい、日本酒への距離が近くなってほしいという思いがありました。そんな中で、世代のターゲットをどこに置くのかを始めに検討しました。市場分析やお客様調査のアンケートなどから導き出されたのは40代。大人として嗜好品にも自分の好みがあり、20代や30代に比べて日本酒との接点も多い世代、日本酒との親和性があると判断しました」

では、なぜ今の40代が日本酒を手に取らないのか。飲用スタイルの変化に伴い、既存商品の容器、容量、テイストがターゲットのニーズに合致しなくなってきたと考えたことから、新商品の方向性が見えてきました。

伊藤「一人当たりの飲酒量が減ってきたと言われる中で、ターゲットが日本酒を楽しむシーンにちょうどよい量が180mLでした。これに近い量だと今の日本酒業界には「カップ酒」という商品カテゴリーが存在しますが、この世代にとって、カップ酒のイメージはあまりよくなく「お店で買うのが恥ずかしい」といった悲しい意見もあるほどでした。「イメージをガラッと変える必要がある」と考え、お酒に限らずさまざまな飲料容器を集め、どれなら手に取ってもらえるのかを検討しました。検討中、メンバーには電車の中でこの容器を空けて飲んでみて…なんてお願いをしたことも(笑)。その中で蓋の開け閉めができる、直飲みでも注いでも飲める口の広さなどを考え、選んだのがこれまでの日本酒にはない『THE SHOT』の容器です」

「THE SHOT」はどのラインナップにも果実のような特徴的な香りと、インパクトのあるテイストが。この味わいにたどりついた理由とは——。

伊藤「これまで晩酌などで好まれていたのが、どんな料理にも合いやすく、飲み飽きのしない淡麗辛口でソフトタイプの酒でした。でも、ターゲットに満足してもらうには味にインパクトが必要だと考えました。リサーチの結果、今、流行の飲食店で人気の日本酒の特徴は、いわゆるフルーティな日本酒。フルーティという言葉は厄介で、香りでもテイストでも使われがちなのですが、それを我々流に『果実のような香りと、やや甘みを感じつつ、あと味が上品なテイスト」と解釈。この方向性で味わいを設計することにしました」

STORY 02

NEWスタイルの日本酒、誕生

総合研究所では各メンバーが日本酒の基礎研究や応用研究を行っており、日本酒造りに関わるさまざまな技術シーズ(※)を持っています。企画した新商品の味わいを実現するために、マーケティング課が依頼した時のことを伊藤と伊出は振り返ります。※技術シーズ…事業を推進していく上で必要となる、(新しい)技術のこと。

伊出 健太郎

伊出「依頼に対して、総合研究所からは今ならこんな技術シーズがありますと提示し、企画に沿ったシーズで試しながら少しずつスケールアップし味わいを設計していくのが一般的です。「THE SHOT」の企画はこれまでの月桂冠の酒造りにはなかったもので、これを商品化するには製造にもかなりの変革を強いることになりそうだと感じました。ただ、新たな世代に向けた日本酒の開発は、社員誰もが必要だと考えていたこと。造り手の意識も日本酒市場の意識も変えるような挑戦的な依頼は、ある意味、私たちが求めていたことだったのかもしれません」

伊藤「日本酒の醸造には時間が必要ですので、試作をお願いしてもすぐにできるものではありません。また、総合研究所とは、『もっとこの甘さを膨らませたい』『香りを出したい』といった要望を伝え、何度もやりとりしました。総合研究所のメンバーは大変だったと思いますが、最終的に決まった味わいは、飲んだ瞬間に『これは行ける!』と確信しました。それくらい、想像以上のおいしさだったんです。よく通常の商品開発よりも短い期間で、それが実現できたものだと思います」。

一方、広告宣伝課では新商品の完成と同時にプロモーションの企画がスタート。ここでは吉川が深く携わりました。

吉川「これまでにないコンセプトの商品でしたので、新しい日本酒が登場したことを強く打ち出すインパクトを重視して企画しました。「THE SHOT」という名前は、一杯の酒という意味だけではなく、発射や打ち上げという意味の連想から、明日に向かって前向きに…という40代へのエールも込めたもの。このプロモーションの軸に、40代への訴求が期待できるタレントを起用し、発売直後から全国スポットでテレビCMを打ちだすと同時に、ブランドサイトを開設しました。得意先からも多数採用をいただき、目標であった、月桂冠の一番の売れ筋「つき」パックに匹敵する数の店舗に商品が配荷されました」

STORY 03

THE SHOT、2年目の挑戦

「THE SHOT」は発売から順調に出荷数を伸ばし、同年にはさらにコンセプトに沿ったものへ味をリニューアル。そして2020年秋に「鮮やかジューシー<純米>がラインナップに加わりました。

伊藤「『THE SHOT』発売日は本当にうれしかったですよ。でも、これで当初の『新たなターゲットに向けた日本酒』が完成したわけではありません。今の時代はお酒に限らずどんな商品でも消費サイクルが早く、お客様の嗜好もどんどん変わります。発売後すぐにプロジェクトのロードマップを引き、発売直後の前進気勢をさらに加速させたいと考えていました。そこで総合研究所にいい技術シーズがないかを相談した時、出てきたのが伊出の見出した酵母<GW-02>でした」

伊出「今度は純米でやりましょうという依頼があった時、最初に挙げたサンプルにいいものがなくて。その時私が、とてもよいテイストを醸すけど、異臭を放ってしまう蔵付き酵母の研究をしていて、その異臭をなくした酵母<GW-02>がちょうど完成したところでした。こんな技術シーズもありますよと駆け込みで提案したところ、『これはおいしい!』と即採用になりました。ただこの酵母は、通常使っている酵母とは発酵のクセが異なり、商品化は非常に難題でした。総合研究所は醸造部に技術シーズを渡すまでが一般的なのですが、<GW-02>のときは何度も現場に足を運び、どうすれば酵母の力を引き出せるのか、つきっきりで検討を重ねました。醸造部からもスケールアップや運用の場面でアイデアを出してもらい、そのおかげで『THE SHOT』の新ラインナップに加えることができました」

THE SHOTの新ラインナップの製造に、蔵付きの酵母を採用

月桂冠株式会社の総合研究所が、酵母に燻製様の劣化臭(オフフレーバー)を生産させない新たな育種技術を開発。これにより、日本酒醸造で一般的に用いられている酵母以外からも、酒造りに適した酵母を育種できるようになり、これまでにない香味の日本酒など新たな製品の創出につながる成果となった。

月桂冠の蔵付きの酵母について

前例のない挑戦で新たなラインナップが加わる中、2年目のプロモーションにも変化が。広告宣伝課吉川の主導の下、営業とも連携した動きを見せます。

吉川 俊也

吉川「1年目のプロモーションで認知は広まり、販売店の「面」は広がりましたが、一方で、販売本数としての「点」の伸びについての課題も見えてきました。その理由は斬新な商品であるがゆえに、それがどんな日本酒なのか、まだまだお客様への浸透や、商品理解の促進が十分でないためでした。そこで、2年目は新ラインナップの登場に合わせ、40代が『THE SHOT』を飲むシーンにスポットを当てました。ブランドコンセプトをさらに掘り下げ、『自分の趣味に寄り添いその楽しみを加速させるためのお酒』として訴求。お客様のライフスタイルを打ち出したテレビCM・WEBサイトへと刷新しました。同時に、お客様の支持を獲得するために各営業拠点と本社が一丸となって、同じ方向性での活動ができるようにプロジェクトチームを結成。商品をあるべき売り場へ配置するために、課題や成功事例を全社で共有することで商談や提案の質を高め、採用に繋げる流れを全社で構築することが狙いでした。提案のネタとして、伊出さんの酵母開発秘話をオンラインで配信したりしましたね。これらが功を奏して、売り上げがアップした得意先や、一度カットになった得意先で復活採用をいただけたケースもありました。また『THE SHOT』を陳列する場所もカップ売場から小容量ビンコーナー、冷蔵コーナー、さらには酒類売場外へと展開するなど、新たな動きも出てきました。お客様の支持を獲得していこうと、チーム一体となってアプローチできたことが一番の収穫でした」

STORY 04

THE SHOTの挑戦は終わらない

日本酒をもっと身近に…という思いでスタートした「THE SHOT」プロジェクトに、明確なゴールはないのかもしれません。それでもプロジェクトに関わった3名は次を見据えています。

伊藤「自分の同世代から『THE SHOT』の名前が自然と出てくるぐらいの商品にしたいですね。でも、日本酒へのハードルはまだまだ高いのが現状です。足りないものをディスカッションして、カタチにしていく。この進化のサイクルを続けることでそれを実現していきたいと思います。業界の課題は若いユーザーの獲得、そのためには自分達のような若い世代が、問題意識をもってプロジェクトの中心を担っていかなければなりません。会社もこういった部分を期待していると思うので、今の所属である営業現場の立場から頑張っていきたいです」

伊出「総合研究所の領域はここまで、若手が意見を言うのはここまで、という線引きを超えて、みんなで意見をぶつけて挑戦できたことは貴重な経験でしたし、自分の研究成果が目の前で形になっていくことに一人では得ることのない大きなやりがいを感じられました。これからも日本酒を科学し続け、『THE SHOT』をはじめ、それ以外の商品にも必要とされる技術シーズを提供する一方で、挑戦的な日本酒造りに果敢にトライし続けたいと思います」

吉川「伊出が言った通り、私も『THE SHOT』では営業現場とも深く連携でき、みんなと思いを共有しながら、一歩ずつ進めることができました。だからこそ全社的な大きな動きにまでプロジェクトが成長できたのだと思います。年代関係なく、言いたいことを言い合えるチーム力こそ月桂冠の大きな武器。『THE SHOT』を成功事例に、既存の枠にとらわれることなく、プロモーションの分野でも新たなことに挑戦したいですね」

  • 飲酒は20歳になってから。
  • 妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
  • お酒はおいしく適量を。
  • 飲酒運転は絶対にやめましょう。
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