PROJECT STORY

新たな日本酒への挑戦

一般的な日本酒のなんと1/3、アルコール度数5%の日本酒「アルゴ」。低アルコールながら飲みごたえのある深いコクと爽やかな酸味が特長で、「平日でも気軽に楽しめる」と大注目されている商品です。2024年9月に発売されるまで、社内ではどんな戦略や苦労があったのか。開発プロジェクトに携わった4名に、各フェーズに沿って語ってもらいました。

MEMBER

〈 企画・マーケティング 〉

S.Y

営業推進部 
マーケティング課
2011年入社
文学部卒

〈 製品開発 〉

S.A

総合研究所 製品開発課
2020年入社
医工農学総合教育部
生命環境学専攻修了

〈 醸造 〉

N.N

醸造部
2015年入社
化学生命工学部卒

〈 営業・販売 〉

Sh.Y

近畿営業部
2013年入社
商学部卒

フェーズ01企画・マーケティング

「平日でも」気楽に楽しめる日本酒を

これまでさまざまな“業界初”を手がけ、日本酒業界をリードしてきた月桂冠。だからこそ常にトレンドに即した新しい商品を生み出す使命があります。
今回誕生した低アルコール日本酒「アルゴ」は約5年前から検討され、時流のタイミングを見計らって開発された商品でした。

S.Y

ライフスタイルの多様化によって、最近はお酒にも幅広い選択肢が求められるようになっています。ノンアルコールやモクテル(アルコールを含まないカクテル)、低アル・微アル飲料が定番になる一方、度数の高いお酒の種類も豊富。そんななか、マーケティング課ではエンドユーザーや小売業者の「低アルコールへの関心が非常に高い」というリサーチ結果を得ていました。特に、厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表してから、低アルコールへの流れがさらに加速したように感じます。

Sh.Y

一方で、日本酒には「度数の高いお酒」というイメージが強い。一般的な日本酒のアルコール度数は15%程度ですが、実際よりも高く思われている方が多いんです。そのため二日酔いになりやすいイメージもあり、平日に飲むのは敬遠されがち。休日の前日にしか飲まれないという飲用シーンの縮小につながっていました。

S.Y

そこで私たちは「平日にも日本酒を飲んでもらいたい」「今まで日本酒に手が伸びなかった方にも楽しんでもらいたい」と考え、従来の1/3のアルコール度数となる5%に挑戦することに。なぜ5%かというと、毎日飲む人が多いビールのアルコール度数が5%であることが一つの指標になりました。これまで8~9%の低アルコール日本酒はありましたが、5%はかなり思い切った挑戦です。

フェーズ02製品開発

「5%なのに予想外のコクと飲みごたえ」
を目指して

課題となったのは、5%のアルコール度数でいかに日本酒らしいおいしさや飲みごたえを表現するか。マーケティング課のYからこの話を持ちかけられた時、製品開発課のAは「これは難しいプロジェクトになるぞ」と真っ先に思ったといいます。

S.A

日本酒の飲みごたえにはアルコールが大きく関わっています。アルコール度数が低くなるにつれ、よくいえば味わいはスッキリしますが、悪くいえば飲みごたえが減っていく。どうやっておいしく設計するかが、当初から悩みの種でした。そこで目指したのが、酸味や旨味をバランスよく配合したテイストです。

S.Y

実は「アルゴ」を発売する前に、当社が実験的に販売している「Gekkeikan Studio no.4」という商品で5%を実現していました。でもこれは数量限定の小ロットだからできたこと。今回のテーマは「常温・全国流通・非炭酸・5%」の日本酒だったので、全国販売に向けての量産化が必須でした。そこは本当に難しいところだったと思います。

N.N

研究所内の小スケールでおいしいものができても、スケールアップした工場での醸造ではうまくいかないというパターンはいくらでもありますから。

S.A

工場スケールで醸造し、かつ目指す味わいを実現するため、製品開発のプロセスではラボ検討や現場でのテスト醸造を繰り返しました。時には抜本的な見直しが必要になり、振り出しに戻ることも…。それらを乗り越えられた要因の一つは、過去の研究成果にも助けられながら関係部署で協力しあえたこと。もう一つは、常温で流通できる品質の高さを維持するため、醸造から製品化まで細かい温度管理が徹底できたこと。この2つが「アルゴ」成功の足がかりになったと思います。

フェーズ03醸造

チーム一丸となって難題に挑み、連携プレーで突破!

月桂冠がこれまで培ってきたノウハウ、独自技術を詰め込んで設計された「アルゴ」。現場でのテスト醸造を経て、いよいよ量産化へという段階でもなかなかスムーズにはいきません。醸造部のNは今までにない新商品に、「絶対成功させたい」という強い意気込みを感じていました。

N.N

「アルゴ」は醸造工程中に甘味と酸味のコントロールを行うことが難しく、発酵経過の予測がカギとなりました。他の日本酒と比べても、日々の発酵経過での微細な変化を見極める必要があったのです。そこで、これまでに蓄えてきた醸造のデータと経験値をフル活用。後にも先にも「アルゴ」を超える発酵管理の難しいお酒はないんじゃないかと思うくらい、繊細に管理しました。

S.Y

今回、報道関係者を招いて新商品発表会を実施しました。発売日を大々的に公表していたので、醸造部としては品質を満たしながら間に合わせないといけないというプレッシャーがあったと思います。

N.N

確かに、発酵管理の難しさと、スケジュールが決まっているプレッシャーはありましたが、誰もが「アルゴを世に送り出そう!」と一丸となって取り組んだおかげで第1弾を無事に出荷。難題をみんなでクリアするやりがいを感じました。

フェーズ04営業・販売

いざ市場へ!「アルゴ」で日本酒の定義を変えたい

製造と同時にマーケティング課で進められていたのは、ネーミングやパッケージデザイン、プロモーション戦略。さらに営業部のYは発売が近づくにつれ、「アルゴ」への期待感とともに「市場で受け入れられるのだろうか」という一抹の不安も感じていました。

S.Y

マーケティング課で苦労したのはネーミングです。いくつものネーミング案を出し、当初は「アルゴ」と違う案もありました。しかし新しいカテゴリーの日本酒であり、低アルコールであることが直感的に伝わる名前がいいと、最終的にアルコール度数5%をストレートに表現した「アルゴ」に決まりました。

Sh.Y

「今まで世になかったものを提案する」ということで、営業の私も最初は不安でした。「5%の日本酒っておいしいの?」と疑っていたんです。ところが社内の新商品説明会で「アルゴ」を初めて飲んだ時、営業部一同がざわめくほどの驚き。商談で試飲されたバイヤーさんも全員が「おいしい!」と口を揃え、スムーズに採用が決まりました。

S.Y

バイヤーさんは私たち以上に「低アルコール」に関してのアンテナが敏感だったことに改めて気づきましたね。

Sh.Y

日本酒の低アルコール新商品は「若い人向け」という捉え方をされがちですが、「アルゴ」のターゲットはもっと広い世界。今までの日本酒の概念を変えるミッションを背負った商品です。そのことを繰り返し伝え、バイヤーさんたちが共感してくださったのが非常に嬉しかったです。

フェーズ05これから

飲酒スタイルの多様化で、日本酒の可能性も広がっていく

予想以上の初動売上を記録した「アルゴ」。大ヒット商品誕生を予感させます。しかし本当の勝負はこれから。低アルコールの日本酒が定番化し、「アルゴ」を日常的に楽しむ人が増える、そんな未来がくるまで挑戦は続きます。

予想以上の初動売上を記録した「アルゴ」。大ヒット商品誕生を予感させます。しかし本当の勝負はこれから。低アルコールの日本酒が定番化し、「アルゴ」を日常的に楽しむ人が増える、そんな未来がくるまで挑戦は続きます。

Sh.Y

初動での「アルゴ」の売れ行きはかなり好調。私は12年営業をやっていますが、これだけ手応えを感じた商品はそう多くはありません。

N.N

自分たちの造ったお酒がどんどん売れていくのはすごく嬉しいし、家族にも自慢していますよ。

S.Y

ただし大事なのは、どれだけリピートがあるか。新商品はやっぱり目新しいので皆さん購入してくださいますが、これから定着するかどうかは私たちの腕や粘り強さにかかっています。マーケティング課ではエンドユーザーの動向を見ながら、メディアと店頭での企画を引き続き考えていきたいと思っています。

S.A

今後も飲酒のスタイルは多様化が進んでいくでしょう。そのスピード感に合わせて「アルゴ」も変化していけるかがこれからの課題。製品開発ではテイスト設計をさらにブラッシュアップしていきたいですね。