月桂冠総合研究所
麹菌ゲノム編集技術の実用性を飛躍的に高める方法を発見

2019年09月09日

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)の総合研究所は、麹菌の遺伝子「thiI」(サイ・アイ)の活用により、有用な形質を持った菌株の獲得方法を革新し、麹菌遺伝子工学研究におけるゲノム編集技術の実用性を飛躍的に高める方法を発見しました。

日本酒醸造などの伝統的発酵産業や工業的酵素生産に用いられる麹菌は、産業上の重要性から、幅広く研究・利用されている糸状菌です。微生物の遺伝子機能解析や有用な形質の獲得には、自然変異や遺伝子組み換え、近年ではゲノム編集と多岐にわたる方法が用いられています。目的とする有用形質を持った変異株の獲得は、薬剤を用いて、生育できるかできないか、その耐性を指標に行います。麹菌の場合は、多種の薬剤に耐性を示すことから、使用できる薬剤の種類が限られています。その中でピリチアミンという薬剤は、麹菌において0.1mg/Lという低濃度でも判定が可能であり、安全性や環境面においても優れています。

以上のことから今回、ピリチアミンへの耐性を指標に、麹菌の遺伝子「thiI」を用いて、有用な変異株獲得の実用化に向けた研究に取り組みました。従来、変異株獲得のために汎用されていた遺伝子「thiA」(サイ・エー)の場合、ゲノム編集で薬剤耐性を獲得できる領域は限られた範囲であり実用は困難でした。一方、遺伝子「thiI」の場合、その領域が広範囲であり、より効率的に変異株を取得できます。そこで、実際に麹菌のゲノム編集により、遺伝子「thiI」の変異した株を取得し、その株はピリチアミン耐性を持つことが確認できました。その株は、ピリチアミン耐性という新規な特性を持つ一方で、特別な栄養要求はせず、通常の株と同様に生育させられることも確認しました。

これらの結果から、「thiI」は、麹菌においてゲノム編集に利用できる有望な遺伝子となることが示唆され、麹菌遺伝子工学研究の革新的な促進に繋がる発見となりました。ゲノム編集した麹菌をそのまま酒造りには使えませんが、今回の成果を活用することで、麹菌遺伝子のおよぼす生産物への影響等の実験的な確認の加速により、今後、品質の高い酒造りや酵素などの工業生産に活かすことができるものと考えています。

この研究成果は、「麹菌Aspergillus oryzaeにおける新規ピリチアミン耐性マーカー遺伝子thiIの同定とゲノム編集への応用」と題して、「第71回 日本生物工学会大会」(主催:日本生物工学会)で、9月18日に発表します。

●学会での発表
学会名:第71回 日本生物工学会大会(主催:日本生物工学会)
発表日時:2019年9月18日 9:12~9:24
会場:岡山大学 津島キャンパス(岡山県岡山市北区津島中)
演題:麹菌Aspergillus oryzaeにおける新規ピリチアミン耐性マーカー遺伝子thiIの同定とゲノム編集への応用
発表者:○戸所 健彦、坂東 弘樹、小高 敦史、堤 浩子、秦 洋二、石田 博樹(○は演者)

●月桂冠総合研究所について
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます (所長=石田 博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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