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大吟醸酒用の酵母育種技術を新開発

2014年1月7日

月桂冠総合研究所は、大吟醸酒の醸造に用いられる酵母の育種技術を新たに開発しました。遺伝子組み換え技術を用いない方法で、吟醸香を多量に生産するようバージョンアップされた株を取得できる技術です。全国の蔵元で大吟醸酒造りに広く用いられている酵母「きょうかい1801号」などを親株として、吟醸酒の華やかな香りの素となるカプロン酸エチル(リンゴ様の香りを呈する成分)を約2倍生産する株などを取得することに成功しました。

吟醸酒造りにおいては、カプロン酸エチルなどの吟醸香を多く生産する酵母が用いられます。それらの酵母では通常、「カプロン酸エチルの生産を促す遺伝子」(X)と「通常の遺伝子」(Y)とが対(つい)になった「ヘテロ接合型」という遺伝子型で存在しています。この酵母から、特別な条件下(セルレニンと呼ぶ成分を混合した培養基)で生育できる株を選抜し、その中から遺伝子Xどうしが対になった「ホモ接合型」に変異したものを見出すことができました。遺伝子Xどうしが対になると、カプロン酸エチルをさらに多く生産するようになります。

自然界では、清酒酵母が「ヘテロ接合型」から「ホモ接合型」に変異する確率は、数万分の1と極めて低く、遺伝子Xどうしが対になった状態へと導くのは難しいものでした。「ヘテロ接合型」から「ホモ接合型」への変異は、「ヘテロ接合性の消失」と呼ばれる現象として知られています。今回の研究は、特別な培養条件により「ヘテロ接合性の消失」が生じた変異株の取得頻度を上げるというアイデアを実現したものです。この方法により、多様な特性を持つ酵母を育種することが容易になったことで、消費者のニーズに呼応した香り、味などのバリエーションを清酒に付与することも可能です。本発明については、「平成25年度 日本醸造学会大会」(2013年10月17日)で学会発表しました(発表者:月桂冠総合研究所・小高敦史ら、演題:「きょうかい1801号から得られた変異株の清酒醸造特性」)。

月桂冠では1980年代の後半から、酵母が醸し出す清酒香気成分の生成機構について解明してきました。その成果をもとにして吟醸酒造りに適した酵母を開発し、その特許技術を広く開放してきました。その技術を用いて育種した菌株は、「きょうかい酵母」として公益財団法人日本醸造協会を通じて頒布され、全国の蔵元で広く活用されています。月桂冠の酵母育種技術が活用されたものとしては、「きょうかい1601号」、日本醸造協会と月桂冠の共有特許権となっている「きょうかい1701号」などの吟醸香を多く作る酵母のほか、有機酸のひとつリンゴ酸を多く生産する酵母などがあります。特に1601号をもとにバージョンアップされた日本醸造協会の「きょうかい1801号」は、全国新酒鑑評会への出品酒の醸造に最も多く使われています。月桂冠による酵母の研究と開発の成果が、酒の香りや酸味をコントロールして目的とする美味しい酒質へと醸すことに貢献するなど、日本酒業界全体の大吟醸酒造りを支えるものとなっています。

月桂冠総合研究所について

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般にわたる基礎研究を行うと共に、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで幅広い研究に取り組んでいます。
(所長=秦 洋二、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)

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月桂冠総合研究所

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