奈良先端科学技術大学院大学×月桂冠総合研究所・第2報

麹菌による「高活性型」PET(難分解性プラスチック)分解酵素の生産に成功

-糖鎖が付加しにくい麹菌の育種により実現-

2022年10月13日

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(学長・塩﨑一裕、奈良県生駒市)の吉田昭介 特任准教授(所属:研究推進機構/先端科学技術研究科バイオサイエンス領域)と、月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は共同研究により、日本酒などの製造に用いられる麹菌を改良することにより、PET1) 分解酵素2)の遺伝子を発現させ、その「高活性型」酵素の生産に成功しました。今回の研究成果は、「コドン最適化による、麹菌Aspergillus oryzaeによるIdeonella sakaiensis由来PET分解酵素の異種発現」と題して、2022年度日本生物工学会大会(会期2022年10月17日~20日)で発表します。

糖鎖除去により「高活性型」PET分解酵素を麹菌で生産
ペットボトルなどに用いられるPET樹脂は難分解性プラスチックの一つであり、マイクロプラスチック問題などの環境汚染を引き起こす要因となっています。また、一部で実用化されているPETリサイクル技術は環境負荷が高いことが課題となっており、その解決策として、より環境負荷の少ないプラスチックの循環技術(PETの原料物質まで酵素分解し、再度PET樹脂の原料として利用する)が注目されています。そこで、PET分解酵素の知見・技術をもつ奈良先端大と、麹菌の酵素生産技術をもつ月桂冠が共同研究を行い、2022年3月、遺伝子を工夫することにより麹菌でのPET分解酵素(PETaseとMHETase)2)の生産に成功したことを報告しました3)。PET循環技術には多量の「高活性型」PET分解酵素が必要ですが、麹菌で生産されたPETaseは「低活性型」であり、PETaseへの多量の糖鎖付加4)が要因であると考えられました。

糖鎖付加が低減したPETaseを麹菌で生産するために、糖鎖を除去する酵素を生産させるよう工夫をした麹菌を育種し(月桂冠担当)4)、生産されたPETaseの評価を行いました(奈良先端大担当)。その結果、大幅に糖鎖付加が減少し、酵素活性が大幅に高くなった「高活性型」PETaseの麹菌による生産を確認しました。

前回発表した遺伝子の工夫による麹菌でのPET分解酵素の生産3)と、今回成功した麹菌での糖鎖除去の工夫による「高活性型」PET分解酵素の生産4)との一連の技術を合わせて、今回学会で発表します。今後は「高活性型」PET分解酵素を用いたPETフィルム5)などの分解について検証するなど、さらに実用化に近づくための研究を進める予定です。

1:PETとはPoly(ethylene terephthalate)をさし、PETは原料物質であるエチレングリコールとテレフタル酸から合成され、これらが無数に重合したもの。飲料のボトル(いわゆるPETボトル)のほか、衣服の原料としても用いられている。
2:奈良先端大・吉田らの研究グループが、新種として発見された細菌Ideonella sakaiensis 201-F6株は、2種の分解酵素(PETaseとMHETase)によりPETを分解する。PETaseはPETをモノヒドロキシエチルテレフタレート(以下・MHET、エチレングリコールとテレフタル酸が1分子ずつ結合した物質)に分解、MHETaseはさらにMHETをエチレングリコールとテレフタル酸までに分解する。
3:PET分解酵素を合成する遺伝子を工夫することで、正常なmRNA(メッセンジャーRNA、タンパク質合成の場へ遺伝情報を伝令する役割を持つ)を形成させ、その結果、麹菌によりPET分解酵素を生産することに成功(奈良先端大・月桂冠2022年3月8日付ニュースリリース)
4:酵素などのタンパク質に糖類などを酵素反応で付加させることにより起きる。麹菌はPETaseを含む異種タンパク質に、多量の糖鎖を付加させる傾向があると言われている。今回は糖鎖を切断する遺伝子(Hypocrea jecorina由来endoT遺伝子)を導入した遺伝子組換え麹菌を作出した。
5:PET分解は、分解しやすい水溶性PETからスタートし、次に比較的分解しやすいPETフィルム、そして分解がしにくいPET樹脂(実際のPETボトルに近いもの)で検証を行うことが一般的とされる。

学会での発表

学会名:2022年度日本生物工学会大会(主催:公益社団法人日本生物工学会)
日時:2022年10月17日~20日
会場:オンラインで開催
演題:コドン最適化による、麹菌Aspergillus oryzaeによるIdeonella sakaiensis由来PET分解酵素の異種発現
発表者:○伊出健太郎1,戸所健彦1,佐貫理佳子3, 南はつね2,河野恵美2,小高敦史1,吉田昭介2,石田博樹1(1月桂冠・総研, 2奈良先端大, 3京工繊)(○印は演者)

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学

先端科学技術の基盤となる情報科学、バイオサイエンス及び物質創成科学の研究領域に加え、これらの融合領域において世界レベルの先進的な研究を推進し、更なる深化と融合、そして新たな研究領域の開拓を進めています。最先端の研究成果に基づく体系的な教育を通じて、世界と未来の問題解決や先端科学技術の新たな展開を担う「挑戦性、総合性、融合性、国際性」を持った人材を育成し、もって科学技術の進歩と社会の発展に貢献します(学長=塩﨑一裕、所在地=〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地の5)。

月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

※ニュースリリースに掲載している情報は、発表日現在のものです。最新の情報とは、異なる場合があります。