月桂冠総合研究所×甲南大学

日本酒麹菌が作る成分・デフェリフェリクリシンに
がん細胞の死滅作用、
そのメカニズムを新たに解明

-国際学術雑誌「Genes to Cells」に掲載-

2023年06月07日

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所と、甲南大学(学長・中井伊都子、兵庫県神戸市)の西方敬人教授ならびに川内敬子准教授(甲南大学フロンティアサイエンス学部)らは共同研究により、日本酒などの製造に用いられる麹菌が作る成分・デフェリフェリクリシン(以下、Dfcy)に、ヒト由来のがん細胞を死滅させる作用があることを発見し、今回、そのメカニズム(パラトーシス*)を解明することに成功しました。この研究成果により、新たな抗がん剤の研究開発につながるとともに、医療分野での応用が期待できます。本研究の内容は、日本分子生物学会の国際学術誌『Genes to Cells』(英文)に掲載されました(2023年6月1日、オンライン公開:https://doi.org/10.1111/gtc.13053)。

デフェリフェリクリシンによる抗がん作用の検証試験
鉄はがん細胞の増殖に深く関わり、鉄と結合する一部の物質には抗がん作用のあることが知られています。日本酒製造に用いられる麹菌が作る成分Dfcyは、鉄と結合する性質があり、米麹やそれを原料とする日本酒などに含まれています。そこで、Dfcyの抗がん作用について、甲南大学大学院生の木下菜月が中心となり、Duke-NUS医科大学(シンガポール)、京都大学、日本医科大学との連携により、メカニズムの解明についての検証を実施、月桂冠は、自社開発した麹菌によるDfcyの大量生産技術を活用して、その製造を行い、今回の検証および実験のために原料の供給を担いました。

具体的な成果の内容は次の通りです。

1) ヒト由来がん細胞**をDfcyで処理することにより、細胞内に多数の空胞が形成されることに関連して細胞の死滅が確認され、Dfcyに抗がん作用があることがわかりました。
2) Dfcyによる抗がん作用のメカニズムを詳細に検証したところ、Dfcyは異常な小胞体の膨張を引き起こし多数の空胞が細胞内に形成されることで、細胞が自己の持つプログラム細胞死である“パラトーシス”*を誘導していたことがわかりました。さらには、このDfcy投与によるパラトーシスによる細胞死は正常な細胞ではほとんど見られず、ヒト由来のがん細胞にのみ作用することがわかりました。

これらの成果は、日本酒、甘酒、みそなどの発酵食品に含まれるDfcyの抗がん作用とそのメカニズムを明らかにした画期的なものです。また、今回明らかになったがん細胞の死滅機構は、新規抗がん剤の研究開発につながる成果であると考えられます。

*:パラトーシスは、細胞内小器官の液胞化を特徴として、細胞が自己の持つプログラムにより計画的に死滅する現象の一つ。他のプログラムされた細胞死としてアポトーシスがあり、多くの抗がん剤は、アポトーシスを経てがん細胞を死滅させる。
**:ヒトの乳がんと肺がん由来細胞を用いて試験をおこなった。

掲載概要

学術誌名:Genes to Cells
タイトル:The iron chelator deferriferrichrysin induces paraptosis via extracellular signal-related kinase activation in cancer cells
著者:木下菜月1、月生雅也1、取井猛流1、芦田侑加子1、赤松実憲1、Alvin Kunyao Guo2、李先民1、勝野達也3、中嶋亘4、Yemima Budirahardja1、三好大輔1、戸所健彦5、石田博樹5、西方敬人1、川内敬子11甲南大学FIRST、2Duke-NUS医大(シンガポール)、3京大院医学研究科、4日医大先端研、5月桂冠・総研)

デフェリフェリクリシン(Dfcy)とは

Dfcyは、麹菌が生産するペプチドで、アミノ酸が6つ環状に繋がった構造をしています。日本酒醸造で用いる米麹はもちろん、日本酒、酒粕、甘酒にも含まれています。Dfcyは鉄と結合して赤褐色の着色成分「フェリクリシン」(以下Fcy)となるため、無色透明であることが求められる日本酒にとっては不要な物質でした。業界では着色原因となるFcyとDfcyを減少させる研究が進められ、現在では、それらの物質を作らせない技術が確立されています。月桂冠では、逆転の発想によりFcyとDfcyの有効活用を検討するために、大量生産技術に関する研究を進めるとともに、これまでに、鉄分吸収促進や抗酸化作用、尿酸値低減、抗炎症作用、美白作用、皮膚バリア機能といった機能性を解明してきました。また、植物への鉄分補給による生育促進作用も確認しています。

月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

甲南大学

1919(大正8)年、平生釟三郎によって創立された甲南学園を母体として1951(昭和26)年に開学した総合大学。学生一人ひとりの天賦の才を大切に育て無限に伸ばし、個性を力にする「人物教育率先」を建学の理念としています。人文・自然・社会科学の8学部・14学科と、博士課程まで備えた4研究科を擁し、約9000人の学部、大学院生が学ぶミディアムサイズの総合大学です。(学長=中井伊都子、所在地=658-8501 神戸市東灘区岡本8-9-1)

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