月桂冠総合研究所
低プリン体日本酒の開発に向け基礎研究

米麹に含まれるプリン体の一つ、ヒポキサンチン生成酵素を同定

2024年09月17日

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は、日本酒醸造中におけるプリン体の生成機構を解明したことを報告(2023年9月7日)、今回さらに研究を進め、プリン体の一つであり、日本酒中に含まれる割合が大きいヒポキサンチンを生成するカギとなる酵素(アデノシンデアミナーゼ)が、どのような種類のものであるかを識別し特定することに成功しました。

研究背景
プリン体は、アデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチンとそれらの構造を持つ化合物の総称です。プリン体の一部は、旨味物質(イノシン酸、グアニル酸など)として利用されますが、一方で痛風の要因となる物質としても知られています。当社総合研究所では、特に醸造初期において、米麹由来のヒポキサンチンが多く生成されることを報告しました(2023年9月7日)。そこで今回は、麹菌のヒポキサンチン生成に関わる酵素を特定し、それを制御することにより、ヒポキサンチンが低減された日本酒の開発を目指すことにしたものです。

米麹のヒポキサンチン生成関酵素 (アデノシンデアミナーゼ)の同定
ヒポキサンチンは、ヒトにおいて、イノシン酸を経由してヒポキサンチンに変換される経路(下図中の白抜き矢印)と、アデノシンを経由してヒポキサンチンに変換される経路(図中の青・赤矢印)の2つの経路が知られています。麹菌においても同様の経路があると考えられてきましたが詳細は不明でした(文献1,2)。

今回の研究では、アデノシンからイノシンに変換する酵素「アデノシンデアミナーゼ」に着目して研究を進めました。まず、麹菌ゲノムデータベースなどから同酵素の候補を抽出し、それをもとにして、米麹において生産される同酵素の候補を絞り込みました。つぎに、同酵素を生産しない麹菌を育種し、米麹を製造しました。その結果、同「アデノシンデアミナーゼ」候補を生産しない麹菌ではアデノシンが蓄積される一方で、ヒポキサンチンはほとんど生成されず、同酵素を保有する対照の実験区分と比較して93%減少することがわかりました。
以上から、米麹のヒポキサンチン生成酵素を同定し、米麹でのヒポキサンチン生成経路がアデノシンを経由する経路であることも明らかにしました。

文献
1) 毛利ら、醗工p922-935 (1965)
2)浅井ら、第75回日本生物工学会大会「Topics of 2023」p40-43

学会での発表

今回の研究成果は、第76回日本生物工学会大会(会期2024年9月8日~10日)で発表しました。

学会名:第76回日本生物工学会大会(主催:公益社団法人日本生物工学会)
日時:2024年9月10日 15時54分~16時06分
会場:東京工業大学 大岡山キャンパス
演題:麹菌Aspergillus oryzaeにおけるアデノシンデアミナーゼの同定
発表者:○浅井良樹、根来宏明、石田博樹(○印は演者)

月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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