奈良先端科学技術大学院大学×月桂冠総合研究所 第4報
麹菌により生産したPET(難分解性プラスチック)分解酵素の評価と生産性改善

2024年09月17日

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(学長・塩﨑一裕、奈良県生駒市)の吉田昭介教授(所属:先端科学技術研究科バイオサイエンス領域)と、月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は共同研究により、1.日本酒などの製造に用いられる麹菌で生産したPET酵素が、他の細菌との比較で、より分解活性が高いことを明らかにしました。また、2.麹菌の培養条件を検討することによりPET分解酵素の生産性を向上させました。

背景
ペットボトルなどに用いられるPET樹脂は難分解性プラスチックの一つであり、環境汚染を引き起こす要因となっています。プラスチックを原料まで戻してリサイクルする技術の一つはケミカルリサイクル法であり、廃棄物をほとんど出さずに資源を繰り返し利用できることから、近年では循環経済型リサイクル法として注目を集めています。PETについてはケミカルリサイクル技術が確立されていますが、より環境負荷を低減させる可能性のあるPET分解酵素(以下、PETase)によるリサイクル技術の開発が注目されています。この技術には、安定で高活性なPET分解酵素が大量に必要となります。

1. 麹菌で生産したPET分解酵素の糖鎖付加評価
これまで、PET分解酵素の知見・技術をもつ奈良先端大(PETaseの性能評価を担当、文献1)と、麹菌の酵素生産技術をもつ月桂冠(麹菌の育種とPETase生産を担当)で、2020年から共同研究を継続してきました。麹菌でPET分解酵素を生産すると多量の糖鎖が付加されること、そして麹菌の育種によって付加される糖鎖の量を大幅に減らすことで酵素の働きやすさが高められることを明らかにしてきました(文献2)。そこで今回、糖鎖付加による酵素学的諸性質を検討するために、糖鎖が多量に付加される麹菌で生産したPET分解酵素と、糖鎖が全く付与されない大腸菌で生産したPET分解酵素とを比較・検証しました。

その結果、糖鎖が付加されることにより、熱安定性が改善すること、酵素活性が改善することが明らかとなりました。糖鎖付加は、酵素安定性の改善(熱安定性・プロテアーゼ耐性)や、溶解性の改善に寄与することが知られており、今後、酵素活性が改善した要因を明らかにする予定です。

酵素学的諸性質を比較した結果を下図に示します。

2. 麹菌でのPET分解酵素(FAST-PETase)生産改善の検討
これまで、麹菌を育種することにより、FAST-PETaseの生産について検討してきました。今回は培養条件、特に培地条件について検討しました。炭素源、窒素源、培養期間などの条件を変えて検討したところ、およそ3倍程度、生産性を改善させることができました。

引用文献・参照URL
1)Yoshida S. et al., Science (2016), doi: 10.1126/science.aad6359.
2) 月桂冠総合研究所・研究紹介 https://www.gekkeikan.co.jp/RD/bio/bio10/

学会での発表

今回の研究成果は、第76回日本生物工学会大会(会期2024年9月8日~10日)で発表しました。

学会名:第76回日本生物工学会大会(主催:公益社団法人日本生物工学会)
日時:2024年9月10日16時42分~17時06分(演題1と2の連続発表時間)
会場:東京工業大学 大岡山キャンパス
演題1:麹菌Aspergillus oryzaeによるPET分解酵素の発現(1)~培養検討による生産量の最大化~
発表者:〇伊出健太郎1、戸所健彦1、中村莉彩2、河野恵美2、佐貫理佳子2、吉田昭介2、石田博樹11月桂冠・総研、2奈良先端大)(○印は演者)
演題2:麹菌Aspergillus oryzaeによるPET分解酵素の発現(2)~糖鎖付加PETaseの機能解析~
発表者:〇中村莉彩1、河野恵美1、佐貫理佳子1、戸所健彦2、伊出健太郎2、石田博樹2、吉田昭介11奈良先端大、2月桂冠・総研)(○印は演者)

各研究機関概要

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術の基盤となる情報科学、バイオサイエンス及び物質創成科学の研究領域に加え、これらの融合領域において世界レベルの先進的な研究を推進し、更なる深化と融合、そして新たな研究領域の開拓を進めています。
最先端の研究成果に基づく体系的な教育を通じて、世界と未来の問題解決や先端科学技術の新たな展開を担う「挑戦性、総合性、融合性、国際性」を持った人材を育成し、もって科学技術の進歩と社会の発展に貢献します(学長=塩﨑一裕、所在地=〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地の5)。

月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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