月桂冠総合研究所
とうがらしを含む辛い食品とも相性のよい、桃の香りの日本酒研究
-カプサイシンを含む食品とγ-ノナラクトン高含有日本酒の食相性試験-
2024年10月17日
月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は、カプサイシンを含む食品と、桃の香りを呈するγ-ノナラクトン高含有日本酒の食相性について試験を行いました。今回の研究成果は、日本醸造学会第16回若手シンポジウム(2024年10月9日~10日)にて発表しました。なお当該の研究発表は、日本醸造学会若手の会「醸造イノベーション賞」を受賞しました。
研究背景
ヒトは食品を口に入れた際、さまざまな食品の成分が混ざり合って生じる複数の刺激と感覚の相互作用によって、おいしさを感じます。特に辛味は、感覚神経にある痛みや熱の受容体であるTRPV1(トリップ・ブイワン)がカプサイシンによって活性化することで、辛みとして感じます(文献1)。近年、TRPV1に対してγ-ノナラクトンが競合的に作用することが報告されています(文献2,3)。

また、これまでに日本酒には微量のラクトン類が含まれていることが明らかになっていましたが、月桂冠では独自の技術によりラクトンを高含有する日本酒の開発に成功しています。
以上のことから、γ-ノナラクトンを多く含む日本酒では通常の日本酒とは異なる食相性評価となるのではと考え、カプサイシンを含む食品とγ-ノナラクトン高含有日本酒の食相性試験を行いました。
γ-ノナラクトン高含有日本酒による辛味緩和の検証
カプサイシンとγ-ノナラクトンが競合的な関係であるため、γ-ノナラクトン高含有日本酒にはカプサイシンによるTRPV1活性化率を下げ、辛味強度に影響を与える可能性が考えられます。そこで、γ-ノナラクトンの濃度のみが異なる試料を用いて、カプサイシンを含む食品との食相性試験を行い、γ-ノナラクトンの辛味強度への影響を調べました。
結果 鼻を閉じて香りを感じない状態で、カプサイシンを含む食品と日本酒を共に摂取した際、対照の通常日本酒に比べて、γ-ノナラクトン含有日本酒の方が、わずかに辛さが弱まる傾向が見られました。また、鼻を閉じず香りを感じる状態では、γ-ノナラクトン含有日本酒の方がさらに辛さが弱まりました。 γ-ノナラクトンの甘い香りが嗅覚と味覚の相互作用を引き起こし、さらに辛味強度へ影響を及ぼした可能性が考えられます。

A: 対照通常日本酒 B: γ-ノナラクトンが100ppb以上の高含有日本酒
つぎに、γ-ノナラクトン高含有日本酒を用いて、カプサイシンを含む各種食品との食相性評価を行いました。加えて、辛味の強度と持続時間が飲料により変化があるかをTI法*によって評価しました。評価軸として食品と飲料を摂取した際に「次の一口が食べたくなるまでの時間」を測定しました。
*TI法(Time Intensity、時間強度曲線法)とは、知覚される感覚強度の時系列的変化を記録し、得られた関数形の特性を様々なパラメータを用いて記述する方法のこと。



食相性評価の結果 対照の日本酒に比べて、トウガラシなどのカプサイシンを含む各種食品は、γ-ノナラクトン高含有日本酒との相性が良い傾向が見られました。
また、TI法の結果より、γ-ノナラクトン高含有日本酒は対照の日本酒に比べ、「次の一口が食べたくなるまでの時間」が短い傾向がみられました。これはγ-ノナラクトンを多く含むことによって、辛さが弱まったためではないかと考えられます。
以上のことから、γ-ノナラクトン高含有日本酒はカプサイシンを含む食品と相性が良いことが示唆されました。
文献
(1) Caterina M J, et al., "The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway", Nature. 389 (6653):816-824 (1997) doi: 10.1038/39807.
(2) Ogawa et al., "Agonistic/antagonistic properties of lactones in food flavors on the sensory ion channels TRPV1 and TRPA1", Chem Senses., 47:bjac023. (2022) doi: 10.1093/chemse/bjac023.
(3) Tobita et al., "Sweet scent lactones activate hot capsaicin receptor, TRPV1", Biochem. Biophys. Res. Commun. 534:547–552 (2021) doi: 10.1016/j.bbrc.2020.11.046.
学会での発表
学会名:日本醸造学会 第16回 若手シンポジウム
日時:2024年10月9日~10日 ポスター発表
会場:北とぴあ (東京都北区)
演題:カプサイシンを含む食品とγ-ノナラクトン高含有清酒の食相性試験
発表者:〇北口あやの、浅井良樹、大石麻水、戸所健彦、石田博樹(○印は演者)
月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。
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