奈良先端科学技術大学院大学×月桂冠総合研究所 第5報
麹菌による新たなPET(難分解性プラスチック)分解酵素生産に成功
2025年09月24日
国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(学長・塩﨑一裕、奈良県生駒市)の吉田昭介教授(所属:先端科学技術研究科バイオサイエンス領域)と、月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は共同研究により、新たなPET分解酵素(以下、LC-cutinase*)の麹菌生産に成功しました。これまで、Ideonella sakaiensis由来PET分解酵素の麹菌生産に成功し、さらに生産したPET分解酵素の諸性質についての検討を継続してきましたが、現在までに蓄積した知見・技術の活用により、今回、新たな酵素の生産に成功したものです。
背景
ペットボトルなどに用いられるPET樹脂は難分解性プラスチックの一つであり、環境汚染を引き起こす要因となっています。プラスチックを原料まで戻してリサイクルする技術の一つとしてケミカルリサイクル法があり、廃棄物をほとんど出さずに資源を繰り返し利用できる資源循環経済システム(サーキュラーエコノミー)として知られています。ケミカルリサイクル法より環境負荷を低減させる可能性のある酵素分解法には、期待が寄せられています。
麹菌による新たなPET分解酵素(LC-cutinase)生産の検討
これまで、Ideonella sakaiensis由来PET分解酵素の知見・技術をもつ奈良先端大(PETaseの性能評価を担当)1)と、麹菌の酵素生産技術をもつ月桂冠(麹菌の育種とPETase生産を担当)で、2020年から共同研究を継続し、麹菌でPET分解酵素を生産に成功し、生産されたPET分解酵素は糖鎖付加によって分解活性が向上することなどを明らかにしてきました2)。
さらに今回、麹菌生産に関わる知見を深めるために、新たなPET分解酵素(LC-cutinase)に着目しました。LC-cutinaseとは、万博記念公園の環境中から見出され、PET分解活性があると報告されているものです3)。これまで開発してきた技術である「麹菌で正常なmRNAが形成されるように遺伝子を工夫する技術**」と「糖鎖除去する麹菌の育種技術***」をもちいて、麹菌に遺伝子を導入し生産を試みました。麹菌で生産した酵素には期待通りPET分解活性があることが明らかとなりました。
今後は麹菌で生産したLC-cutinaseの生産性を高める方法などを検討し、PETの酵素分解など環境応用に可能な技術の開発に貢献する予定です。
*大阪大学の研究グループによって大阪府吹田市にある万博記念公園の枝葉コンポストからメタゲノム法により単離された新規クチナーゼで、生分解性プラスチックやPETなどを分解する活性がある。
**予期しないスプライシングやpolyA付加が起きないように工夫し、正常なmRNAが形成されるようにする技術。
***Hypocrea jecorina由来endoT遺伝子(糖鎖切断酵素をコードする遺伝子)を導入・育種した麹菌を用いて、糖鎖を除去したLC-cutinaseを生産する技術。

引用文献・参照URL
1) Yoshida S. et al., Science (2016), doi: 10.1126/science.aad6359
2) 月桂冠総合研究所ホームページ・研究紹介 https://www.gekkeikan.co.jp/RD/sake/sake40/
3) Sulaiman S. et al., Appl Environ Microbiol. (2012), doi: 10.1128/AEM.06725-11
学会での発表
今回の研究成果は、第77回日本生物工学会大会(会期2025年9月10日~12日)で発表しました。
学会名:第77回日本生物工学会大会(主催:公益社団法人日本生物工学会)
日時:2025年9月12日16時38分~16時50分
会場:広島工業大学 五日市キャンパス 三宅の森 Nexus21
演題:麹菌Aspergillus oryzaeによるPET分解酵素LC‑cutinaseの生産
発表者:〇戸所健彦1、伊出健太郎1、吉田昭介2、石田博樹1(1月桂冠・総研、2奈良先端大)(○印は演者)
各研究機関概要
国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術の基盤となる情報科学、バイオサイエンス及び物質創成科学の研究領域に加え、これらの融合領域において世界レベルの先進的な研究を推進し、更なる深化と融合、そして新たな研究領域の開拓を進めています。
最先端の研究成果に基づく体系的な教育を通じて、世界と未来の問題解決や先端科学技術の新たな展開を担う「挑戦性、総合性、融合性、国際性」を持った人材を育成し、もって科学技術の進歩と社会の発展に貢献します(学長=塩﨑一裕、所在地=〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地の5)。
月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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