月桂冠の酒蔵で明治期に採取の100年酵母
「きょうかい2号酵母」から吟醸香を高生産する株を育種

2019年10月10日

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)の総合研究所は、1912(明治45)年に月桂冠の酒蔵で採取された「きょうかい2号酵母」から、吟醸香を高生産する株を育種することに成功しました。この酵母が醸し出す酒質がもともと備えている甘口でなめらかな味わいという特徴と高い吟醸香とを兼ね備えた、フルーティな清酒の製造が期待できる成果となりました。

本研究では、「きょうかい2号酵母」に吟醸香を多く作らせることを目的とし、酵母の育種および清酒醸造試験を行い、その上で、得られた株の遺伝的背景を探索するための解析も併せて実施しました。「きょうかい2号酵母」から、リンゴのような吟醸香であるカプロン酸エチルを高生産する株を取得するため、セルレニンという薬剤の中でも生育できる247株を分離しました。アルコール生成量とカプロン酸エチル生産性を指標に清酒醸造試験を行い、その中から最も香味バランスの優れた株「C-16」を選抜しました。

「C-16」株の、全遺伝子情報の解析を行ったところ、親株の「きょうかい2号酵母」と「C-16」株は共に、カプロン酸エチルの生産に関与する「FAS2」(ファス・ツー)と呼ぶ遺伝子が含まれる「16番染色体」が、通常の2本よりも1本多い3本であることを確認しました。さらに、「C-16」株では、3本あるFAS2遺伝子の全てが、カプロン酸エチルを高生産する形に変化していることを確認し、このことが「C-16」株のカプロン酸エチル高生産の要因であることを突き止めました。

この研究成果は、「清酒酵母きょうかい2号とそのセルレニン耐性株の特徴」と題して、「令和元年度日本醸造学会大会」(主催:日本醸造学会)で、10月16日に発表します。

●きょうかい2号酵母
「きょうかい2号酵母」は当時の大蔵省醸造試験所が、全国の銘醸蔵の酒モロミから採取した酵母の一つです。今から100年以上前の1912(明治45)年に月桂冠から採取されたこの酵母は、「きょうかい2号酵母」として1917(大正6)年から1939(昭和14)年の間、日本醸造協会から頒布され、業界全体で酒造りに使用されていました。「きょうかい2号酵母」は、通常の酵母より染色体の本数が多いなど、現在の酒造りによく使用される「きょうかい7号系」と呼ばれる酵母とは遺伝的に遠く、別系統の酵母であることがこれまでの研究で明らかになっています。酵母の遺伝子の違いは、酵母が作る味や香りの成分の量にも影響を与えるため、「きょうかい2号酵母」が造る酒の香味は、一般的な清酒とは異なる非常に個性的なものとなっています。

●学会での発表
学会名:令和元年度日本醸造学会大会(主催:日本醸造学会)
発表日時:2019年10月16日 15:45~16:00
会場:北とぴあ(東京都北区王子1-11-1)
演題:清酒酵母きょうかい2号とそのセルレニン耐性株の特徴
発表者:○堀田 夏紀、小高 敦史、松村 憲吾、秦 洋二、石田 博樹(○は演者)

●月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます (所長=石田 博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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