中村屋と月桂冠、両社の共同研究成果を発表

清酒酵母の育種技術をパン酵母に応用し、中華まん生地にフルーティな香りを付与可能な技術を開発

~香気成分「酢酸イソアミル」を高生産するパン酵母を育種、蒸し生地への応用技術を開発~

2026年09月02日

株式会社中村屋(代表取締役社長 島田裕之、本社:東京都新宿区)と、月桂冠株式会社(代表取締役社長 大倉治彦、本社:京都市伏見区)総合研究所は、共同研究により、清酒酵母の育種に用いられてきた技術をパン酵母へ応用し、吟醸香の主要成分である酢酸イソアミル*を高生産するパン酵母を育種しました。さらに、この酵母を用いて発酵条件を検討した結果、焼成パンと比較して一般的に香りが失われやすい中華まんの様な蒸し生地においても、酢酸イソアミルによるフルーティな香りを付与できる技術を開発しました。

共同研究の背景
日本酒醸造では、酢酸イソアミルなどの吟醸香や有機酸、アミノ酸を生成する力を高める酵母育種技術が数多く開発され、日本酒の個性的な香味づくりに活用されています。
一方、製パンにおいて、酵母は生地を膨らませる重要な役割を担い、パンの種類や製造方法に応じてさまざまな酵母が使い分けられていますが、パンの発酵期間は通常1~4時間であり清酒の20~30日間よりも遥かに短いことから、発酵によって清酒のような特徴的な風味を付与するのは難しいとされていました。
そこで、中村屋と月桂冠は、日本酒醸造で培われた酵母育種技術をパン酵母へ応用し、酵母が発酵中に生み出す香気成分によって、パンに特徴的な風味を付与することで生地の美味しさを向上することを目指し、2023年より共同研究を開始しました。

酢酸イソアミル高生産パン酵母の育種
今回の共同研究では、中村屋が保存するパン酵母を親株として、酢酸イソアミルを高生産する酵母の育種を試みました。清酒酵母の育種に用いられてきた方法を活用し、「5,5,5-トリフルオロロイシン」**への耐性を指標に選抜して、7株の耐性株を育種しました。育種した酵母を用いて製パン試験を行ったところ、多くの育種株で、対照株を用いたパンと比べて酢酸イソアミルが増加し、風味の変化が認められました(下記グラフ参照)。

中華まん生地への応用
一般的に、蒸し生地では蒸し加温時に香りが失われやすく、酵母が生成した香気成分を製品中に残すことが難しいと考えられてきました。
そこで、酵母添加量や発酵条件について検討したところ、清酒醸造を参考にした低温・長期間発酵条件において、酢酸イソアミルが高生産されることがわかりました。この条件で育種株を用いて製造した中華まんの生地では、酢酸イソアミル量が親株を用いた場合の約3.4倍に増加しました。また、官能評価においても、酢酸イソアミルに由来するフルーティな吟醸香を優位に感じることが確認されました。

▲中華まんを蒸した時の様子

今回の研究により、清酒醸造で培われてきた香味改良のための酵母育種技術を、製パン分野へ応用できることが示されました。また、焼成パンと比較して一般的に香りが失われやすい蒸し生地においても、酵母が生み出すフルーティな香りを付与できることが示されました。
今後は、パンや中華まんの種類、原料配合、発酵条件などによる香りや味わいの変化についてさらに検証を進め、酵母が生み出す香りを生かしたパンや中華まんの開発につなげていきます。
なお、本技術を使用した製品化の時期や詳細については未定です。

【補足用語】
*酢酸イソアミル:バナナやメロンを思わせるフルーティな香りを持つ香気成分。日本酒では吟醸香を構成する代表的な成分の一つ。
**5,5,5-トリフルオロロイシン(TFL):アミノ酸の一種であるロイシンと似た構造を持つ化合物。TFLに耐性を示す酵母を選抜する方法は、酢酸イソアミルを高生産する清酒酵母の育種に利用されている。

学会での発表

今回の研究成果は、日本食品科学工学会第73回大会(会期2026年8月26日~28日)で、発表しました。

学会名:日本食品科学工学会第73回大会(主催:公益社団法人 日本食品科学工学会)
日時:2026年8月28日 9:15-9:45(演題1と2の連続発表時間)
会場:東北大学川内北キャンパス

演題1:高香気パンの製造に適した酵母Saccharomyces cerevisiaeの育種
発表者:○浅井 良樹1、根来 宏明1、加藤 立2、田澤 英二郎2、塚原 崇仁2、野口 隆浩2、村松 秀人2、高橋 秀輔2、井上 祐一2、石田 博樹1 (1. 月桂冠株式会社、2. 株式会社中村屋) (○印は演者)

演題2: 酢酸イソアミル高生成株による蒸し生地の品質向上
発表者:○加藤 立1、田澤 英二郎1、塚原 崇仁1、野口 隆浩1、村松 秀人1、高橋 秀輔1、井上 祐一1、浅井 良樹2、根来 宏明2、石田 博樹2 (1. 株式会社中村屋、2. 月桂冠株式会社) (○印は演者)

各研究機関概要

株式会社中村屋 研究・技術開発部
1931(昭和6)年に創業者である相馬愛蔵・黒光夫妻の長男安雄の提唱によって設立された「食料研究部(食品研究所)」が前身、現名称に至る。「発酵技術」を含むコア技術を中心に中長期の事業戦略と連動させた技術の磨き上げと独自の新技術開発を行うと共に、食品の評価技術の研究を行っています。
(部長=高橋秀輔、所在地=〒243-0401 神奈川県海老名市東柏ケ谷四丁目4番1号)

月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

※ニュースリリースに掲載している情報は、発表日現在のものです。最新の情報とは、異なる場合があります。

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