吟醸香がヒトの心身に及ぼすリラックス効果

月桂冠総合研究所が「日本味と匂学会」第54回大会で発表

2020年10月22日

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)の総合研究所は、日本酒のフルーティな香りの主要な成分である「カプロン酸エチル」や「酢酸イソアミル」を嗅ぐと、ヒトの心と体にリラックス効果(鎮静効果)をもたらすことを、「日本味と匂学会」第54回大会(主催:日本味と匂学会)で発表しました。この成果は、筑波大学大学院 矢田幸博教授の技術指導のもと、ヒトに対する有効性評価試験で明らかにしたもので、味や匂を専門とする同学会での月桂冠の発表は初めてとなります。この発表を契機に、月桂冠では、味や香り、食相性といった日本酒のおいしさに関する研究に、一層力を入れていきます。

吟醸香によるリラックス効果、有効性評価試験

日本酒の香りは様々な成分で構成されていますが、中でも酵母によって作られる果物や花のような香りは、「吟醸香」(ぎんじょうか)として人々を魅了しています。吟醸香の主要な成分としては、リンゴのような華やかな香りの「カプロン酸エチル」と、バナナのような芳醇な香りの「酢酸イソアミル」が知られています。月桂冠総合研究所では、これら吟醸香の成分を嗅ぐことでヒトにもたらされる効果を検証しました。成人女性18人分の試験データを解析したところ、吟醸香にはストレスや不安などの感情を抑える心理的な効果と、安静時に働く副交感神経活動を優位にする生理的な効果があることを確認しました。
本試験の結果から、日本酒における吟醸香の存在が、高い嗜好性とあわせて、ヒトの心と体に高いリラックス効果(鎮静効果)をもたらしていることを明らかにしました。香りのよい日本酒が人々に好まれる理由の一つとして、このような吟醸香のリラックス効果が発揮され、日本酒の香りを楽しむことで心身のリラックスが期待できるためと推察されます。今回の研究成果を生かして、吟醸香の高い新たな日本酒の開発はもちろん、ストレスの緩和や心身の安定など、日常生活に癒しを提供する手段としても日本酒の香りの応用を検討していきます。研究成果の詳細については、月桂冠のホームページ・研究開発のコーナーで紹介しています。

日本酒の香りがもたらすリラックス効果。吟醸香で癒しのひとときを。
> https://www.gekkeikan.co.jp/RD/sake/sake17/

学会での発表

学会名:日本味と匂学会 第54会大会(主催:日本味と匂学会)
日時:2020年10月22日 (オンラインで開催)
演題:日本酒の吟醸香がヒトの心身に及ぼす鎮静効果
Psychological and physiological sedative effect of ginjo-ka aroma components of sake
発表者:○鈴木佐知子1、矢田幸博2、竹内美穂1、石田博樹1(1月桂冠・総研、2筑波大院・グローバル教育院)(○印は演者)

日本味と匂学会

味と匂に関する科学の広範な研究の進展をはかることを目的とした学会で、1967(昭和42)年に開催された「味と匂のシンポシアム」が前身。AChemS(Association for Chemoreception Sciences) およびECRO(European Chemoreception Research Organization)など関連のある国際的機構と共同して、味および匂に関する研究の進展に寄与する国際的事業に参画しています。

日本酒業界全体の大吟醸酒造りに貢献 ―月桂冠による吟醸香を高生産する酵母育種の歴史―

月桂冠では1980年代後半、酵母が醸し出す香気成分「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」などの生成機構の解明に成功しました。その成果をもとにして吟醸酒造りに適した酵母を開発し、特許技術を広く開放してきました。それらの技術を用いて育種した菌株は、「きょうかい酵母」として公益財団法人日本醸造協会を通じて頒布され、全国の蔵元で広く活用されています。月桂冠の酵母育種技術が活用されたものとしては、「きょうかい1601号」、日本醸造協会と月桂冠の共有特許権となっている「きょうかい1701号」など吟醸香を多く作る酵母のほか、有機酸のひとつリンゴ酸を多く生産する酵母などがあります。特に1601号をもとにバージョンアップされた日本醸造協会の「きょうかい1801号」は、全国新酒鑑評会への出品酒の醸造にも多く使われています。月桂冠による酵母の研究と開発の成果は日本酒業界全体で活用されており、酒の香りや酸味をコントロールして目的とする美味しい酒質へと醸すことに貢献するなど、大吟醸酒造りを支えるもとになっています。月桂冠の酵母育種技術はオリジナル酵母の開発にも活用しており、直近では、従来の吟醸香高生産酵母の約2倍の吟醸香生産能を持つ酵母を育種するなど、吟醸香を高めた日本酒造りに直結する成果にもつながっています(「カプロン酸エチル超高生産株の育種と清酒実地醸造試験」と題して、「日本農芸化学会2020年度大会」で発表)。

月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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