日本の食の基本は「米」
一汁三菜
和食は「米」が軸となり、日本の多彩な食材の持ち味を、だしのうま味により引き出す。ご飯に、汁、おかずの菜(焼き物、煮物、和え物など)を組み合わせて食するのが「一汁三菜」であり、各食材との調和を大切にする和食の基本型とされている。「菜」→「ご飯」→「汁」→「ご飯」→「菜」・・・と、「一汁三菜」、それぞれの間に「ご飯」をいただく。ご飯を食べるために、汁や菜があるという考え方だ。
「和食」料理の発展
古来、日本では食の基本となるのは「米」である。米飯や餅、清酒など、米を原料とするものの中で、最も手間をかけて作られるのが清酒であり、最も尊いものとして神棚の中央に供えられる。古代の神まつりの「神酒と神饌」(ミキとミケ)は、宮廷料理へと発展していく。宮廷料理から、さらに精進料理、武家の本膳料理、町衆の会席料理、茶人の懐石料理などが次々と派生し、洗練された風味とすぐれた食文化をつくり上げていった。飲食文化の発展の中では、酒を介した儀礼、酒杯のやりとりを通じた麗しい文化も形成され、大事に継承されてきた。
日本の食の基本となる「米」を原料に、最も手間をかけて醸される清酒が神棚の中央に供えられる。料理や飲食の神様とされる山蔭神社のお供え物(京都市勧業館・みやこメッセで開催の「京料理展示会」にて)。
和食に合わせる清酒
清酒は、日本人の暮らしの中で培われてきた「和食」文化の一つとして発展し、食事との間を寛容に取り持つ「食中の酒」として嗜まれている。今日では、さまざまな食材とその品種・産地による特徴や調理の仕方によって、和食の多彩な味わいが食膳で演出される。その料理ごとに酒を選び、食膳に供される一皿ごとの料理の風味、味わいに合わせて酒を変えていく楽しみもある。合わせる酒としては、水のちがい、原料米や造りのちがい、火入れ(加熱殺菌)の有無、新酒・古酒のちがい、蔵元が所在する地域の食文化や気候・風土の影響を身にまとった酒など多彩さに富んでいる。その特徴を自在に組み合わせることが可能だ。
酒を楽しむものとして発展した和食料理の形式の一つとされる会席料理の献立と、さまざまなタイプの酒との取り合わせの一例を紹介する。あくまでも一例であり、それぞれの酒量に合わせて試してみるのもよい。
前菜・お吸い物
前菜として季節のお料理が八寸や小鉢に盛られる。合わせる清酒は、例えば端午の節句には菖蒲を漬け込んだ「菖蒲酒」、夏季には「生酒」など冷酒タイプの酒、秋口には適度に熟成の進んだ「ひやおろし」、冬期には新酒の「あらばしり」などを少量味わえば、季節感を楽しむこともできる。
刺身(お造り)
華やかな香りで、淡麗な味わいの「純米大吟醸酒」をおすすめする。きりっと冷やした酒に、お刺身が良く合う。
煮物
さまざまな種類の煮物があるが、旬の食材を使われることが多く、盛り付けに美的な工夫がほどこされて食膳に上る。関西・関東では味の濃さが異なり、料理の仕方もさまざまだが、ここでは「純米酒」を冷や(常温)で合わせることをおすすめする。
焼き物
先の煮物の際、冷やで試した「純米酒」の燗酒と、焼きたての熱い魚とを合わせてみたい。煮物と合わせた冷やの「純米酒」との、温度帯による味わいの変化を楽しみたい。
揚げ物(天ぷら)・蒸し物(茶碗蒸し)
温かい料理が続くが、ここでは酒の種類を変え、中庸な味わいで飲み飽きのしない「普通酒」(「上撰」「佳撰」や「辛口」などの小印がついたもの)の燗酒を合わせてみたい。
一般には、料理の進行に合わせてアルコール度数の「低い酒」から「高い酒」への順番に、また「淡麗な酒」から「濃醇な酒」へ、「冷酒」から「燗酒」へ、といった飲み方が奨められている。「温かい料理」には「燗酒」を、「冷たい料理」には「冷やした酒」を、などと言われることもある。また、科学的なデータに基づき相性が良いとされる食材と清酒との組み合わせも提案されている。しかし、定石には必ずしもとらわれなくてもよいと言える。何と言ってもお召し上がりになる方の酒に対する好みが大事。先入観にとらわれず、美感や雰囲気も含めて嗜好を楽しむために、さまざまな取り合わせをお試しいただきたい。
(参考文献)
- 神崎宣武 『乾杯の文化史』 ドメス出版 (2007年)
- 栗山一秀 「京都における人間、都市、酒」 『CEL』VOL.27、大阪ガスエネルギー文化研究所 (1994年2月)
- 田崎真也 『日本酒を味わう―田崎真也の仕事』 朝日新聞社 (2002年)