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月桂冠総合研究所
研究内容
お酒の研究

選んで育てて!香味豊かなオリジナル清酒酵母

清酒は米を原料として麹菌・酵母の働きで造られます。麹菌は主に米を溶かして糖分や酵母の栄養となる物質をつくります。一方、酵母は酒の主成分であるアルコールと清酒らしい香りや味をつくります。
月桂冠総合研究所では、早くから酵母の研究に取り組み、香りの高い清酒を造る酵母や有機酸の組成が異なる酵母などの育種技術を開発しました。これらの育種技術を用いた酵母は生酒や吟醸酒の製造などに利用され、多彩な香りや味わいの酒質を商品化することに貢献しています。

酵母の働き

香りの高い酵母の育種

吟醸酒の芳醇な香りはエステルを主体とした果実様の香りです。その主成分として、カプロン酸エチルと酢酸イソアミルが知られています。

[1]カプロン酸エチル高生産性酵母の育種

カプロン酸エチルを増加させるには、基質であるカプロン酸の濃度を増加させる必要があります。カプロン酸は酵母の脂肪酸合成酵素によって生成されますが、通常はカプロン酸のような鎖長の短い脂肪酸は大量に生成されません。そこで、生成される脂肪酸の鎖長のバランスを変えるために、脂肪酸合成酵素を特異的に阻害する薬剤のセルレニンに耐性がある酵母を育種しました。この酵母を用いて清酒の仕込みを行ったところカプロン酸エチルが大幅に増加し、リンゴ様の華やかな香りの酒を造ることに成功しました。

カプロン酸エチル高生産株で醸造した清酒の成分
カプロン酸エチル高生産株で醸造した清酒の成分
カプロン酸エチルの生成モデル
カプロン酸エチルの生成モデル

[2]酢酸イソアミル高生産酵母の育種

I . トリフルオロロイシン耐性酵母

酢酸イソアミルはアセチル-CoAとイソアミルアルコールを基質としてアルコールアセチルトランスフェラーゼによって生成されます。清酒もろみ中ではイソアミルアルコール濃度が律速と考えられていますので、イソアミルアルコール生産性の高い酵母の育種を行いました。イソアミルアルコールの生合成経路の1つは、ロイシンによるフィードバック阻害を受けています。そこでロイシンによるフィードバック阻害を解除すれば酵母菌体内のロイシンの濃度にかかわらずイソアミルアルコール濃度が上昇すると考え、ロイシンのアナログであるトリフルオロロイシンの耐性株を取得しました。この酵母で清酒を醸造するとイソアミルアルコールの増加とともに酢酸イソアミルが増加しバナナ様の香りが強化されました。

酢酸イソアミル高生産酵母で醸造した清酒の成分
酢酸イソアミル高生産酵母で醸造した清酒の成分

II . プレグネノロン耐性酵母

トリフルオロロイシン耐性酵母の取得により酢酸イソアミルの高い酵母を得ることに成功しましたが、イソアミルアルコール含量も増えるため、特有のアルコール様の香りも強くなります。そこで酢酸イソアミルの合成反応であるアルコールアセチルトランスフェラーゼ(AATFase)を強化して、酢酸イソアミルのみの生成を高める酵母の育種方法を開発しました。
ステロール生合成中間体であるプレグネノロン(PG)は細胞内にとり込まれると細胞内の解毒酵素であるATF2にコードされるAATFaseによりアセチル化を受け、細胞外に排出されます。このような解毒機構を持たない酵母はPGによって増殖阻害を受けることが報告されています。そこでPG耐性株を取ることによりAATFase活性の高い酵母を育種することに成功しました。この方法で育種した酵母はイソアミルアルコール含量は同等で、酢酸イソアミル含量のみが高くなっていました。

酢酸イソアミルの生合成
酢酸イソアミルの生合成
  酢酸イソアミル
(ppm)
イソアミルアルコール
(ppm)
AATFase活性
(ppm/h/mg rotein)
PG耐性株 10.4 301 101
親株 2.4 256 32

有機酸組成の異なる酵母の育種

清酒には、乳酸、コハク酸、クエン酸など約40種類の有機酸が含まれています。中でもリンゴ酸はさわやかな酸味を与えることで知られています。当社では、有機酸を合成するTCA回路の中の酵素であるコハク酸デヒドロゲナーゼの阻害剤(ジメチルコハク酸)に感受性のある株を取得したところ、リンゴ酸のみ高生成されることを見出しました。この酵母を用いて清酒を製造すると、リンゴ酸のみ通常の3倍増加して、とてもさわやかな酸味を有した酒となりました。

ジメチル酸コハク酸感受性株で醸造した清酒の有機酸組成
ジメチル酸コハク酸感受性株で醸造した清酒の有機酸組成

学会発表

カプロン酸エチル酵母育種

  • 清酒の酵素に関する研究(第4報)清酒酵母のアルコールアセチルトランスフェラーゼ、醗酵工学会(1982)
  • 清酒醸造の酵素に関する研究(第5報)清酒酵母のアルコールアセチルトランスフェラーゼ(その2)、農芸化学会(1983)
    栗山一秀、斉藤義幸、芦田晋三、杉並孝二、今安聰
  • 清酒の酵素に関する研究(第6報)酵母のカプロン酸エチルの合成および分解活性について、農芸化学会(1984)
  • 清酒の酵素に関する研究(第7報)麹菌のカプロン酸エチルの合成および分解活性について、農芸化学会(1984)
  • 清酒の酵素に関する研究(第8報)モデル系による酵母と麹のカプロン酸エチルの生成について、農芸化学会(1984)
  • 清酒の酵素に関する研究(第9報)酵母のカプロン酸エチル生成について、醗酵工学会(1984)
    栗山一秀、斉藤義幸、芦田晋三、秦洋二、杉並孝二、今安聰

酢酸イソアミル酵母育種

  • 清酒の酵素に関する研究(第4報)清酒酵母のアルコールアセチルトランスフェラーゼ、醗酵工学会(1982)
  • 清酒醸造の酵素に関する研究(第5報)清酒酵母のアルコールアセチルトランスフェラーゼ(その2)、農芸化学会(1983)
    栗山一秀、斉藤義幸、芦田晋三、杉並孝二、今安聰
  • 清酒の酵素に関する研究(第6報)酵母のカプロン酸エチルの合成および分解活性について、農芸化学会(1984)
  • 清酒の酵素に関する研究(第7報)麹菌のカプロン酸エチルの合成および分解活性について、農芸化学会(1984)
  • 清酒の酵素に関する研究(第8報)モデル系による酵母と麹のカプロン酸エチルの生成について、農芸化学会(1984)
  • 清酒の酵素に関する研究(第9報)酵母のカプロン酸エチル生成について、醗酵工学会(1984)
    栗山一秀、斉藤義幸、芦田晋三、秦洋二、杉並孝二、今安聰

論文

カプロン酸エチル酵母育種

  • 酵母のカプロン酸エチル合成および分解活性、醗酵工学会誌、64、175(1986)
  • 麹のカプロン酸エチル合成及び分解活性、醗酵工学会誌、64、247(1986)
  • 醪におけるカプロン酸エチル生成に対する酵母と麹菌の役割、64、253(1986)
    栗山一秀、芦田晋三、斉藤義幸、秦洋二、杉並孝二、今安聰
  • Breeding of a Sake Yeast with Improved Ethyl Caproate Productivity, Agric.Biol.Chem., 55, 2153(1991), Ichikawa, et al.
  • カプロン酸エチル高生産酵母、日本醸造協会誌、88、101(1993)市川英治

酢酸イソアミル酵母育種

  • Isolation and Application of Mutants Producing Suffcient Isoamyl Acetate, a Sake Flavor Component, Agric.Biol.Chem., 51, 2061(1987), S. ASHIDA, et al.
  • 清酒酵母のアルコールアセチルトランスフェラーゼ、醗酵工学会誌、64、169(1986)

リンゴ酸高生産酵母の育種

  • リンゴ酸生成能の高い清酒酵母の育種、醗酵工学会誌、70、473-477(1992)
    相川元庸、水津哲義、市川英治、川戸章嗣、安部康久、今安聰

参考文献

カプロン酸エチル酵母育種

  1. 日本醗酵工学会 講演要旨集、202(1991)、水津ら
  2. 日本醗酵工学会 講演要旨集、119(1991)、浪瀬ら

酢酸イソアミル酵母育種

  1. Introduction of a Feed Back Resistant α-Isopropylmalate Synthase Gene of Saccharomyces cerevisiae into Sake Yeast, J.Ferm.Bioeng., 77, 119(1994), T. Suizu, et al.

(掲載日:2004年9月1日)

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