380年を超える歴史

現社長で14代目の大倉治彦は、1997年(平成9年)の就任時、基本理念「QUALITY、CREATIVITY、HUMANITY」を制定しました。品質第一、革新と挑戦、人間性の重視という、事業を継続する中で受け継いできた暗黙知の価値観を明文化したものです。常に創造と革新を繰り返すことで度重なる苦難を乗り越え、この伝統を継続し、勝利と栄光のシンボル「月桂冠」の酒銘に相応しい地位を確立してきました。

江戸時代初期に創業

江戸期建造の大倉家本宅が現存。8代目当主・大倉治右衛門の時代、1828年(文政11年)に当社創業の地に建てられた

月桂冠の創業は、初代大倉治右衛門が、1637年(寛永14年)、京都の南部、木津川上流の笠置より、現在も当社が本社を構える伏見に出てきて酒屋を開いたのが始まりです。創業家の大倉家は、その出身地から、屋号を「笠置屋」と称しました。淀川三十石船の乗降場にも近く、旅人の往来も盛んな、街道筋に面した立地を生かして酒の製販業を営み、家業は順調に推移していきました。
江戸時代の伏見は大坂、京、江戸を結ぶ交通の要衝としてたいへん栄えた町で、人口は3万人以上、江戸・大坂・京に次ぐ町として伝えられています。酒の需要も高まり、伏見で造酒株(酒造免許)を下付された酒造家は1657年の時点で83軒を数えるほどになっていました。
と言っても当社は、地元の伏見で商う小さな酒屋にすぎませんでした。今でこそ日本全国、世界各地へも清酒を供給するほどに、会社の規模は大きくなりましたが、それは割合最近のことであり、創業以来、江戸期の250年間は、ずっと伏見の地の酒として商ってきました。
さらに経営環境は順風ばかりではありませんでした。1657年に83軒あった伏見の酒屋は、1785年には28軒にまで減りました。その原因として3点が考えられます。まず、酒造りには火を頻繁に使うので火事が絶えなかったことです。もう一つは、微生物学の知識がなかった時代であり、多くの酒屋で酒の腐造が頻発していたこと。さらに飢饉のため米を原料とする酒造りは度々制限されたことです。また、鳥羽伏見の戦い(1868年)が勃発し、戦災で多くの伏見の酒蔵や民家が罹災しました。私共の酒蔵は、火の手が迫る中、辛うじて罹災を免れ、それが現在の継続に繋がったのです。

中興の祖、11代目・大倉恒吉

11代目当主・大倉恒吉(1874-1950)

受け継いできた事業を飛躍的に大きくしたのが、明治期の11代目当主・大倉恒吉です。恒吉一生の間には、酒の数量で500石から50,000石まで、100倍にも事業を拡大しました。
恒吉は13歳と若くして家業を継ぎました。港町として栄えた伏見の町が、舟運から鉄道の開業などにより激変する中、市場を遠く東京などに求めていきました。1909年には清酒メーカー初の酒造研究所を設立、新しい技術の導入による品質の向上、「樽詰め」が市場の主流だった中で「壜詰め」を導入、「防腐剤なしのびん詰清酒」を初めて開発しました。さらに、商標「月桂冠」の採用、デザイナーを起用した斬新な意匠の採用などにより、酒の商品づくりを革新、日本で有数の酒造家に発展していきました。 1927年(昭和2年)5月には株式会社組織としました。第二次世界大戦後は、続く12代目の大倉治一、13代目の大倉敬一が、「品質第一」をモットーとして、家庭向けの市場を中心に、広く市場を全国に広げました。また、四季醸造など新しい技術開発にも積極的に取り組む新機軸を打ち出し、食生活の変化や酒類市場の多様化に合わせた高品質で多彩な商品を開発するようになりました。

創造と革新を重ねコツコツと

現在、14代目の大倉治彦をトップマネジメントとして、メーカーの基本である品質第一を常に追求、世界最高品質の商品をお客様に提供することを重視して経営に取り組んでいます。清酒を主力としてリキュール類も製造販売、また、ビールやワインも輸入販売しています。

本社は、創業時から変わらず京都伏見に置いています。経営本部、製造本部、営業本部を含め、現在約400名の社員が就業。主力の醸造場と製品工場は伏見に所在し、営業部は全国の8都市に置いています。

近年の酒類販売の規制緩和をきっかけに、街の酒販店だけでなく、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどさまざまな業態で酒類が販売されるようになりました。その中で、提案型営業にも対応する組織体制を構築、さらにマーケティングを駆使し、市場のニーズ・ウォンツに合った商品の開発と上市に努めています(2008年、業界で初めての「糖質ゼロ清酒」の商品化など)。技術開発力、マーケティング力、提案力を生かして、高級クラスから普及タイプの商品まで、品質が高く、多彩な清酒を商品化し、安定的なシェアを保っています。

海外にも拠点を置き、1989年には米国月桂冠株式会社(清酒など酒類の製造、販売・輸出)を、2011年に月桂冠(上海)商貿有限公司(中国国内における清酒販売)、2021年には月桂冠(深圳)国際有限公司(中国におけるEC旗艦店の運営)を設立しました。米国月桂冠からは、米国内のほかカナダ、南米、欧州、アジアなどに清酒を供給、日本からの輸出との両輪で、よりグローバルな経営を目指しています。

さらに月桂冠グループの事業活動を充実させていくために、2014年、主力の清酒事業に続く、第2の柱となる食品事業の中核企業として、冷凍麺などを製造販売する株式会社キンレイの食品事業部門を、グループ会社として迎えました。同社では、冷凍麺などの商品を、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどで広く販売しています。

地元京都・伏見では、1982年(昭和57年)に、お酒の資料館「月桂冠大倉記念館」を開設、 酒造用具類を保存し、伏見の酒造り発展の歴史、月桂冠の挑戦と創造のスピリッツをわかりやすく紹介しています。同館では1987年(昭和62年)に一般公開して以来、 300万人目のお客様を2018年4月12日に迎えました。永年培ってきた醸造技術と共に、歴史的風土を生かしながら、新たな日本酒文化の発信を続けています。

更新日 2022年11月21日