環境への取り組み麹菌・酵母菌を活用しバイオマスから
バイオエタノールやバイオプラスチック原料を生産

バイオエタノール生産技術の開発

清酒酵母の細胞表層に、緑色蛍光タンパク質を並べられることを確認(2003年)、ここから「スーパー酵母」の開発が始まった
清酒酵母の細胞表層に、緑色蛍光タンパク質を並べられることを確認(2003年)、ここから「スーパー酵母」の開発が始まった
「スーパー酵母」の働きにより、もみ穀や稲わらからエタノールが生成できることを実験で確認
「スーパー酵母」の働きにより、もみ穀や稲わらからエタノールが生成できることを実験で確認

月桂冠総合研究所では、酒造りの技術と微生物(清酒酵母、麹菌)の働きを応用して、もみ殻や稲わらなど食用にならない植物原料からバイオエタノールを生産する技術の開発を進めています。清酒酵母に、麹菌のセルロース分解酵素の遺伝子を組み込み、酵母の細胞表面に酵素が並ぶようにした「スーパー酵母」を開発しました。この酵母の働きにより、単独で糖化と発酵を担わせるようにするものです。清酒酵母はアルコールの生産能力が優れており、長年の食経験からも安全性が非常に高いことが注目されています。

麹菌
麹菌

さらに、酒造りに用いるもうひとつの微生物、麹菌(こうじきん)に、強力なセルロース分解酵素を大量生産する機能を持たせた「スーパー麹菌」を開発し、植物原料の前処理を代替させる研究を行っています。これに「スーパー酵母」を作用させ、グルコースへの分解とエタノールへの変換を連続的に進めようとするものです。

「スーパー酵母」の働きにより、もみ穀や稲わらからエタノールが生成できることを実験で確認
バイオ燃料生産技術の開発

今後、「スーパー麹菌」の開発をさらに進め、「スーパー酵母」と共に、全工程を微生物に担わせるバイオ燃料生産システムの構築を検討していきます。この新しい生産システムは、クリーンでコンパクトな装置で製造ができるため、植物原料が発生する場所で処理を行う、地域分散型のバイオ燃料生産が可能となります。

実用化には、スーパー麹菌とスーパー酵母によるアルコールの収量・収率を高めていくと共に、バイオマスの収集からアルコールの精製までを担う社外の様々な技術との統合が課題となります。日本の酒造りの中で培われてきた発酵技術、微生物や酵素の利用技術を活かすことが地球環境問題解決への一助になればと考え、開発を進めていきます。

麹菌によるバイオマスからのバイオプラスチック原料生産

セルロースの効率的な加水分解には最低限3つの酵素が必要。これらの酵素を生成する機能を麹菌に組み込み、紙パルプの効率的な分解に成功した

神戸大学大学院工学研究科と月桂冠総合研究所は共同で、セルロース系バイオマスを効率良く分解できる麹菌を開発しました。セルロースは水や熱水にも溶けにくく、分解しにくいことが難点です。効率的な分解には少なくとも3種類の酵素(セロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ)を生産する機能を麹菌に組み込むことが必要です。麹菌に対して、複数の遺伝子を導入する方法を新たに採用することにより、セルロースからグルコースへ分解する能力を従来の方法と比べ、10倍強化することに成功しました。

セルロースは、食糧と競合しないバイオマス原料として活用が検討されています。麹菌によるセルロースの分解能力を高めることにより、石油資源に替わるエネルギーや、乳酸などバイオプラスチックの原料となる物質生産への活用が期待されています。 月桂冠は、文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」継続課題として、神戸大学を中心とした14協働企業の参画による「バイオプロダクション次世代農工連携拠点」に参加し、本研究ほかの課題に取り組んでいます。