デフェリフェリクリシンの植物への鉄供給効果
~麹菌のデフェリフェリクリシン鉄錯体が農業に貢献!~
研究背景
現在地球では爆発的に人口が増加しています。増加し続ける人口を支えるには食糧増産が必須ですが、近年の異常気象や環境ストレスのために、作物の収穫高が減るとことが問題となっており、環境への負荷の少ないバイオスティミュラント資材*の開発が求められてきました。
月桂冠では「デフェリフェリクリシン」(以下、Dfcy)という麹菌Aspergillus oryzaeが自然界から鉄を取り込むために生産する物質について着目し、研究を行ってきました。これまでに、抗酸化、尿酸値低減、皮膚バリア誘導といった新しい機能性があることを明らかにしてきました。また、Dfcyが鉄と結合したDfcy鉄錯体は、ラットの鉄欠乏性貧血を改善することも明らかにしました。
そこで、デフェリフェリクリシンを用いることで植物への鉄分補給に役立つことができないか、愛知製鋼株式会社様と共同で研究を実施しました。
研究方針
鉄は植物の生育に必須であり、葉緑素の合成や、窒素肥料をアミノ酸に変換する役割等、植物を成育促進させる役割を担っています。野菜などの双子葉植物はStrategy-I型鉄吸収機構(酸を分泌して鉄を溶解、3価鉄を還元して2価鉄イオンを吸収)によって鉄を獲得しています。しかし、環境ストレスによって、鉄吸収機構が働かずに鉄欠乏を起こすことが国内でも見られています。
そこで、Dfcyは3価鉄と結合して水溶性のキレート物質になる機能を持つため、キレートさせた状態で土壌に潅水(給水)すれば、双子葉植物が鉄源として利用できるのではないかと考えました。
以上のことから、鉄欠乏状態の葉緑素が不足にした植物に、Dfcy鉄を供給すると葉緑素量が増加するか測定しました。
結果
まず、鉄を吸収しにくい土壌で枝豆を栽培し、鉄欠乏症(葉緑素減少で葉が黄変)を発生させました。次にDfcy鉄錯体水溶液を用いて給水し、鉄欠乏症の改善を評価しました。葉の葉緑素量を評価したところ、鉄材なしと比較してDfcy鉄錯体を添加したものは30%程度改善し、Dfcy鉄錯体を投与した枝豆の外観も明らかに濃い緑になっていることが観察されました(図2(b))。
また、カボチャやイネに対しても同様の試験を行い、Dfcy鉄錯体が葉緑素の量を改善させることも確認できました。
まとめ
枝豆とカボチャ、そしてイネに改善効果があったことから、Dfcy鉄錯体は植物全般に鉄供給能力がある可能性が示されました。また、Dfcy鉄錯体は環境負荷が少ないバイオスティミュラント資材でもあり、国内外の農業に貢献できることが期待されます。
- バイオスティミュラント資材:従来の肥料、土壌改良材および農薬とは異なり、非生物的なストレス(鉄欠乏症などを含む)による収量減少を軽減する資材。
学会発表
- 2021年度日本土壌肥料学会中部支部・中部土壌肥料研究会例会
「デフェリフェリクリシンの植物への効果」
戸所健彦、〇石田博樹、細田健介*、鈴木基史*(*愛知製鋼(株)未来創生開発部 次世代あぐり開発グループ)
(掲載日:2021年12月14日)