寒いときにおすすめの飲み方は?
たとえば、生姜を甘酒に入れることをおすすめします。生姜には血流促進効果が知られており、酒粕でつくった甘酒の場足、身体を温める効用との相乗で、寒い時にはぴったりの飲み方です。生姜が苦手な方は、血流促進効果が知られている梅肉エキスなどを入れるのも良いでしよう。
酒粕と米麹の両方を原料とする甘酒の特徴は?
酒粕は日本酒造りにおいて生じる副産物で、発酵を終えたもろみを搾って得られます。酒粕には、発酵中に働いた清酒酵母が残っています。この清酒酵母そのものがタンパク質であり、酒粕にはビタミンなどの栄養素も多く含まれています。一方、もともと酒造りの原料の一つとなっている米麹は、米のデンプンやタンパク質を分解して多様な成分を生みだす力を持っています。米麹と酒粕の両方を原料としている甘酒には、それぞれの持つ機能性の複合作用を発揮することも期待できます。月桂冠では、米麹と酒粕を共に原料として用いた甘酒を商品化しています。
デフェリフェリクリシンとは何ですか?
酒造りにおいて麹づくりを担う微生物、麹菌(Aspergillus oryzae)が生産する物質です(6個のアミノ酸が結合した環状ペプチドと呼ぶ構造を持っています)。酒造りの工程で、蒸したお米に麹菌を生育させて米麹をつくりますが、その中に含まれています。
その他に、甘酒の機能性に関する研究成果はありますか?
甘酒の成分が、抗肥満、血圧上昇抑制、健忘症抑制などに関与していることを明らかにしてきました。
米麹による甘酒のルーツ
米麹による酒造りは、稲作が日本に定着した頃に遡ると言われており、その後、米麹を使った甘酒のような飲み物も存在していたのではないかと考えられます。
「日本書紀」「万葉集」にみられる甘酒
奈良時代に成立した歴史書「日本書紀」には、木花咲耶姫(神吾田鹿葦津姫)によって天甜酒(あまのたむさけ)が醸造されていたことが記されています。この天甜酒は、現在の甘酒に近いものと考えられています。また万葉集に詠まれた山上憶良の「貧窮問答歌」には、「糟湯酒」(かすゆさけ)として酒粕をお湯で溶いて飲んだということが記されています。
「養老律令養老令」「延喜式」にみられる甘酒
奈良時代の「養老律令養老令」には造酒司が定められ、甘酒に近い造り方の醴(こさけ)を醸造していたことが記されています。さらに平安時代の「延喜式」によると、6月から7月にかけて醴を作っていたそうです。 この醴づくりの伝統は時代を経て、江戸時代に夏場の栄養補給も兼ねて飲まれた甘酒が夏の季語となっていることのルーツなのではないか、との想像も膨らみます。
中世の甘酒
中世になると、大寺院で僧侶によってつくられる僧坊酒や、町で酒をつくって売る酒屋が現れてきました。米麹の製造には特別な技術が必要だったため、これらの酒屋とは別に米麹を専門に製造する業者がいました。学問の神様である菅原道真を祭った北野天満宮(現在の京都市上京区)の「麹座」が特に有名でした。米麹は酒造りだけでなく、甘酒づくりなどにも利用されており、室町時代の京の町では麹売りが街に出て商っていたのだそうです。麹座の流れをくむ種麹製造会社が、現在においても、日本酒、しょうゆ、みそなど醸造飲食品メーカーに商いを継続しています。
江戸時代の甘酒
江戸時代中後期の「塵塚談」によれば、江戸では甘酒は元々寒い冬に売り歩いていたものが、暑い夏でも売り歩かれるようになったと記され、また甘酒屋では四季を通して商っていたことが述べられています。
幕末の「守貞謾稿」では、江戸(東京)、京坂(当時の京と大坂間の淀川流域)の行商人による甘酒販売についてふれています。甘酒一杯の値段は、江戸では八文、京坂では六文だったそうです。甘酒は落語の小噺にも取り上げられるほど庶民になじみが深い飲みものでした。江戸では甘酒が年中売られていたのに対し、京坂では専ら夏の夜だけに売られていたことが、「守貞謾稿」にも記されています。特に京・大坂を含む上方で盛夏の飲み物として人気があり、暑気払い、栄養補給を兼ねた風物詩だったことから、俳句では夏の季語にもなっています。
明治から現代にかけての甘酒
江戸時代、夏場を中心に飲まれていた甘酒は、明治へと時代が新たまり、次第に冬季に温めて、暖をとるのに飲まれることが多くなったようです。関西では元々、生姜や少々の香辛料を甘酒に加えて飲む習慣があります。近年では、「ジャパニーズ・ヨーグルト」「飲む点滴」「美容・健康飲料」としてその機能性が見直されています。「冷やし甘酒」を標榜する商品も数々発売され、再び季語の通りに夏場でも飲用されるようになったのです。
参考・引用文献
- 坂口謹一郎・監修 『日本の酒の歴史―酒造りの歩みと研究―』、協和発酵工業株式会社(1976年)
- 七十一番職人歌合新 日本古典文学大系 61(1993年)
- 村井三郎、化学と生物(1968年)
- 喜田川守貞、近世風俗志 守貞謾稿 (1)(1996年)
- 天野亀太郎、天野弥一、日本釀造協會雜誌(1976年)
- 石井隆一郎、生活科学(1950年)