月桂冠総合研究所
研究内容
美と健康の研究

デフェリフェリクリシンによる皮膚バリア機能の改善

月桂冠総合研究所では、麹菌が生産し、米麹や日本酒、酒粕にも含まれるペプチド「デフェリフェリクリシン」(以下、Dfcy)が、美白(研究コンテンツはこちら )、抗酸化(研究コンテンツはこちら )や、抗炎症といった肌に関連する機能を持つことを確認してきました。そこで本研究では、新たに皮膚バリア機能に着目し、Dfcyが与える影響について検証を行いました。

ヒト表皮細胞でのフィラグリン産生促進の検証

皮膚の最も重要な役割は、生体の内側と外側をわけるバリア機能であると言われています。近年の研究により、フィラグリンの欠損が、皮膚バリア機能を低下させ、アトピー性皮膚炎を引き起こす原因になることが知られています。フィラグリンは、皮膚の細胞内で産生されたあと、皮膚の代謝に伴って分解され、天然保湿因子として機能します。このような背景からフィラグリンが着目されており、産生を促進する物質の探索が行われ、化粧品原料として応用されています。

図 フィラグリンによる肌バリア機能の概要
フィラグリン_グラフ

Dfcyが、ヒト表皮細胞におけるフィラグリン産生に与える影響について検証するため、Dfcyの添加量を変えて正常ヒト表皮細胞を4日間培養し、細胞内のフィラグリン量を測定しました。その結果、Dfcyの濃度依存的に細胞内のフィラグリン量が増加する傾向が見られました。特に、Dfcyを終濃度0.0004%となるように添加した場合には、細胞にDfcyを添加しないControlと比較して細胞内のフィラグリン量が有意に増加しました。

図 Dfcyの添加量と細胞内のフィラグリン量
図 Dfcyの添加量と細胞内のフィラグリン量

DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析

次に、Dfcyが皮膚バリア機能改善に関連する遺伝子の発現量に与える影響について検証するために、Dfcyを添加して2日間培養した正常ヒト表皮細胞用いてDNAマイクロアレイ解析を実施しました。その結果、Dfcyを0.1%添加することにより、フィラグリンをコードするFLG遺伝子の発現量に増加傾向が見られました。また、機能欠損により皮膚のバリア組織の構成成分であるcornified cell envelope(以下、CE)が形成できなくなることで皮膚バリア機能が低下することが知られている「トランスグルタミナーゼ」をコードするTGM1遺伝子、同じくCE形成に関わることが知られている「インボルクリン」をコードするIVL遺伝子など、CE形成に関与する遺伝子の発現量に増加傾向が見られました。

表 DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析結果
フィラグリン_表 フィラグリン_表

*数値はDfcyを添加していない場合を1とした遺伝子発現量の相対値

まとめ

以上の結果から、Dfcyはヒト培養細胞を用いたモデル試験において、フィラグリンの産生を促進する機能を持つことが明らかとなりました。このフィラグリンの増加は、DNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現量の増加によっても裏付けられました。マイクロアレイ解析からはさらに、フィラグリン産生促進以外にも、DfcyがCE形成を介して皮膚バリア機能を改善する可能性が示されました。本研究の結果は、Dfcyを皮膚バリア化粧品やアトピー性皮膚炎治療薬などとして開発できる可能性を示すものです。
冒頭でも述べた通り、麹菌が生産するDfcyは、日本酒にも含まれています。日本酒は、飲むだけでなく、酒風呂(日本酒風呂)など、美容面での効用が確認されています。日本酒に含まれるDfcyは、肌のバリア機能の維持・改善を担っている可能性も考えられ、今後のさらなる機能性の解明が期待されています。

学会発表

  • 麹菌が産生する環状ペプチドデフェリフェリクリシンによる抗炎症・美白作用のマイクロアレイ解析および皮膚バリア機能の解明、日本農芸化学会大会(2021)
    ○戸所健彦、石田博樹

参考文献

  • 日本臨床免疫学会会誌, 40巻6号p416-427(2017)
  • 診療と新薬,57巻3月号p239-246 (2020)

(掲載日:2021年3月18日)