月桂冠総合研究所
研究内容
お酒の研究

日本酒初のプリン体低減特許製法で実現!
~おいしさを追求した「プリン体ゼロ」の日本酒を商品化~

健康意識の高まりに呼応して、糖質やカロリーを低減した日本酒(日本酒で初めての「糖質ゼロ」を2008年発売)や、アルコール分が控えめでも飲みごたえのある日本酒の開発に取り組むなど、機能性の日本酒という新しいジャンルの開拓に貢献してきました。なかでも今回、プリン体の1日当たりの摂取量を減らしたいというご要望にお応えするために研究を進め、日本酒では難しかったプリン体を低減する製法の開発に成功しました。その技術が日本酒で初めてのプリン体低減特許製法(特許第5302377号)として2013年6月28日に登録されました。その特許権取得から約4年を経て、2017年2月、「プリン体ゼロ」※の商品を発売しました。

※ プリン体0.5mg未満(100ml当たり)を「プリン体ゼロ」と表示しています。本商品は醸造アルコールを添加した「普通酒」規格の清酒です。プリン体低減特許製法(特許第5302377号)の内容は、すべて醸造アルコールを添加した「普通酒」規格の清酒を用いた試験結果です。

プリン体ゼロの日本酒
プリン体ゼロの日本酒

プリン体ゼロ日本酒の特徴

[1]プリン体とは

プリン体とはプリン骨格を持つ物質の総称で、プリン塩基、プリンヌクレオシド、ATPなどのプリンヌクレオチドなどの構造で存在します(図1)。これらは、動物、植物、微生物の細胞成分として、穀物、肉、野菜など食品全般に含まれており、体内で分解後、尿酸として排出されます。

図1 プリン体の構造
図1 プリン体の構造

プリン体含量は肉や魚介類で100g当たり50~300mgほど、アルコール飲料では100ml当たりビールで3.3~8.4mg、紹興酒で7.7~11.6mg、日本酒で1.2~1.5mg、ワインでは0.4~1.6mg、となっています(表1)。日本酒中のプリン体は、米や米麹などの原料、使用する酵母に由来し、清酒の製造方法、米や米麹などの原料、使用する酵母によっても、含量が変化すると考えられます。

表1 アルコール飲料のプリン体含量

蒸留酒

アルコール飲料 100ml当たりの総プリン体(mg/100ml)
ウイスキー 0.1
焼酎(25%) 0.0
ブランデー 0.4

醸造酒

アルコール飲料 100ml当たりの総プリン体(mg/100ml)
ビール 3.3-8.4
ワイン 0.4-1.6
紹興酒 7.7-11.6
日本酒 1.2-1.5

引用:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)、編集:日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改定委員会、株式会社メディカルレビュー社(2010年1月)

[2]日本酒初のプリン体低減製法特許

日本酒に含まれるプリン体をゼロにすることを着想したのは、プリン体の1日当たりの摂取量を少しでも減らしたいというお客様のご要望にお応えするためでした。発泡酒などのビール類では、プリン体ゼロを訴求した商品が既に販売されており、活性炭によりプリン体を除去する技術も確立されていました。しかし日本酒では、プリン体低減技術の開発は容易でありませんでした。その理由は、日本酒に含まれるプリン体組成がビール類とは異なるためで、そのままの方法では十分に除去できないことが技術的な課題でした。この課題を解決するために、日本酒中のプリン体測定方法を最適化して確立、プリン体を除去するための活性炭の選定、除去に最適な活性炭の条件の法則を決定するなど試行錯誤を繰り返しました。
活性炭には、様々な物質を吸着できるという性質があり、臭い取りや水の浄化など不純物の吸着素材として使用されています。活性炭の内部を詳しく見ると、微細な孔が無数にあります。その孔の壁は大きな表面積を作りだしており、そこに物質が吸着されます。活性炭が物質を吸着できるようにする賦活の方法によって、図2のような細孔直径、比表面積、粒子径が異なる様々な活性炭が存在し、それが吸着除去に関わる性質を決める上で重要な因子となります。

図2 活性炭の微細な構造(細孔直径・比表面積・粒子径)
図2 活性炭の微細な構造(細孔直径・比表面積・粒子径)

このような、活性炭の微細構造に着目して研究を進めた結果、日本酒中のプリン体の吸着除去に適した活性炭には、図3のような特徴があることを見出しました。

図3 日本酒中のプリン体の除去に適した活性炭の条件(特許5302377号)
図3 日本酒中のプリン体の除去に適した活性炭の条件(特許5302377号)

この研究成果は、日本酒で初めてのプリン体を低減する製法特許(特許第5302377号)として、2013年6月28日に登録されました。

[3]お酒の飲み方、生活習慣にも要注意!

痛風や高尿酸血症を予防する基本は、①バランスの良い食事、②適量の飲酒、③軽い運動が重要です。プリン体は体内で分解後、尿酸として排出されますが、摂り過ぎて蓄積されると痛風などにより健康を損なう危険があり、1日のプリン体の摂取量は400mg以下が望ましいと言われています。さらに、アルコール飲料では、アルコールの代謝に関連して血清尿酸値が上昇することもあり注意が必要です。このような観点から1日当たりの飲酒量の目安は、ビール500ml、日本酒1合、ウイスキー60mlが推奨されています。
表2には一般的な食品中のプリン体含量を示しています。プリン体の過剰摂取とならない食事について、種々の良書にレシピ案が掲載されていますので、いくつかを参考文献として記しました。

表2 食品のプリン体含量(100g当たり)

極めて多い食品
(食品100g当たり300mg以上)
鶏レバー、マイワシ干物、イサキ白子、あんこう肝酒蒸し
多い食品
(食品100g当たり200-300mg)
豚レバー、牛レバー、カツオ、マイワシ、大正エビ、マアジ干物、サンマ干物
少ない食品
(食品100g当たり50-100mg)
うなぎ、わかさぎ、豚ロース、豚バラ、牛肩ロース、牛タン、マトン、ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ツミレ、ほうれんそう、カリフラワー
極めて少ない食品
(食品100g当たり50mg未満)
コンビーフ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、焼きちくわ、さつま揚げ、カズノコ、スジコ、ウインナーソーセージ、豆腐、牛乳、チーズ、バター、鶏卵、とうもろこし、ジャガイモ、さつまいも、米飯、パン、うどん、そば、果物、キャベツ、トマト、にんじん、大根、白菜、海藻類

引用:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)

編集:日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改定委員会、株式会社メディカルレビュー社(2010年1月)

参考文献

  • 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会編集『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』株式会社メディカルレビュー社(2010年1月)
  • 特許第5302377号「プリン体低減清酒の製造方法」(2013年6月28日登録)

プリン体を意識した料理レシピ書籍

  • 『東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターのおいしい痛風・高尿酸血症レシピ―組み合わせ自由自在327レシピ』主婦の友社(2014年)
  • 『NHKきょうの健康 痛風・高尿酸血症の食事術【ポケット版】』主婦と生活社(2013年)
  • 『尿酸値改善のためのプリン体まるわかりBOOK』サンクチュアリ出版(2013年)