月桂冠総合研究所
研究内容
美と健康の研究バイオの研究

日本酒や甘酒などに含まれる麹菌成分・デフェリフェリクリシンにがん細胞を死滅させる作用を発見

研究背景

日本酒や甘酒などの製造に用いられる麹菌が作る成分・デフェリフェリクリシン(以下、Dfcy)には、「肌のバリア機能改善」や「身体的疲労感」の改善など、様々な生理機能があることを明らかにしてきました。新たな機能性を調査したところ、Dfcyの類似物質(DeferoxamineとDeferasirox)には抗がん活性があるものの、肝障害や腎障害を引き起こすこと報告されていました。そこで、本研究ではDfcyが副作用のない抗がん剤であるかを検証することとしました。

デフェリフェリクリシンによる抗がん作用の検証試験

鉄はがん細胞の増殖に深く関わり、鉄と結合する一部の物質には抗がん作用のあることが知られています。日本酒や甘酒の製造に用いられる麹菌が作る成分Dfcyは、鉄と結合する性質があり、米麹やそれを原料とする日本酒などに含まれています。他方、Dfcyの類似物質には抗がん作用があるものの重篤な副作用が知られていることから、抗がん活性と副作用について検証を行いました。Dfcyの抗がん作用と副作用について、甲南大学 フロンティアサイエンス学部の西方敬人教授と川内敬子准教授が中心となり、Duke-NUS医科大学(シンガポール)、京都大学、日本医科大学との連携により、メカニズムの解明についての検証を実施、月桂冠総合研究所は、自社開発した麹菌によるDfcyの大量生産技術を活用して、その製造を行い、今回の検証および実験のために原料の供給を担いました。

具体的な成果の内容は次の通りとなりました。

  • 1) ヒト由来がん細胞**をDfcyで処理することにより、細胞の死滅が確認され、Dfcyに抗がん作用があることがわかりました。
  • 2) Dfcyによる抗がん作用のメカニズムを詳細に検証したところ、Dfcyは異常な小胞体の膨張を引き起こし多数の空胞が細胞内に形成されることで、細胞が自己の持つプログラム細胞死である“パラトーシス”*を誘導していたことがわかりました。さらには、このDfcy投与によるパラトーシスによる細胞死は正常な細胞ではほとんど見られず、ヒト由来のがん細胞にのみ作用することがわかりました。
図:従来の抗がん剤とDfcyの作用機構の違い(イメージ)
従来の抗がん剤とDfcyの作用機構の違い

*:従来の抗がん剤はアポトーシスという機構でがん細胞を死滅させるの対し(青矢印)、Dfcyはパラトーシスという別の機構で死滅させることが分かった(赤矢印)。

これらの成果は、日本酒、甘酒、みそなどの発酵食品に含まれるDfcyの抗がん作用とそのメカニズムを明らかにした画期的なものです。また、今回明らかになったがん細胞の死滅機構は、従来の死滅機構とは異なることから、新規抗がん剤の研究開発につながる成果であると考えられます。

  • *:パラトーシスは、細胞内小器官の液胞化を特徴として、細胞が自己の持つプログラムにより計画的に死滅する現象の一つ。他のプログラムされた細胞死としてアポトーシスがあり、多くの抗がん剤は、アポトーシスを経てがん細胞を死滅させる。
  • **:ヒトの乳がんと肺がん由来細胞を用いて試験をおこなった。

論文・文献

  • 1) ”The iron chelator deferriferrichrysin induces paraptosis via extracellular signal-related kinase activation in cancer cells”、木下菜月1)、月生雅也1)、取井猛流1)、芦田侑加子1)、赤松実憲1)、Alvin Kunyao Guo2)、李先民1)、勝野達也3)、中嶋亘4)、Yemima Budirahardja1)、三好大輔1)、戸所健彦5)、石田博樹5)、西方敬人1)、川内敬子1)(1甲南大学FIRST、2Duke-NUS医大(シンガポール)、3京大院医学研究科、4日医大先端研、5月桂冠・総研):Genes Cells., 28(9) p653-662 (2023), doi: 10.1111/gtc.13053
  • 2) 「日本酒麹菌産生物質デフェリフェリクリシンががん細胞に及ぼす効果について」、月生雅也1)、取井猛流1)、木下菜月1)、西方敬人1)、川内敬子1)、戸所健彦2)、石田博樹2)(1甲南大学FIRST、2月桂冠・総研)、食と医療,29,p14-20(2024)
  • 3) 「麴菌由来デフェリフェリクリシンによるがん細胞特異的細胞死誘導機構」、木下菜月1)、戸所健彦2)、石田博樹2)、西方敬人1)、川内敬子1)(1甲南大学FIRST、2月桂冠・総研)、日本醸造協会誌, 119(5), p226-231(2024)

学会発表

  • 1)「麹菌産⽣物質デフェリフェリクリシンによる抗がん作用の検証」、○木下菜月1)、芦田侑加子1)、赤松実憲1)、Yemima Suryani Budirahardja1)、中嶋亘1)、月生雅也1)、取井猛流1)、三好大輔1)、戸所健彦2)、石田博樹2)、田中信之1)、西方敬人1)、川内敬子1)(1甲南大学FIRST、2月桂冠・総研)、日本分子生物学会年会(2022)
  • 2)「麹菌産生物質デフェリフェリクリシンの抗がん作用」、〇豊田駿1)、芦田侑加子1)、浦野諒人1)、月生雅也1)、赤松実憲1)、取井猛流1)、戸所健彦2)、久田博元2)、石田博樹2)、西方敬人1)、川内敬子1)(1甲南大学フロンティア, 2月桂冠・総研)、日本薬学会第142年会(2022)

メディア取材・掲載

  • 「Science View Vol.313 和食ワンダーランド~微生物が生み出す無限の世界~」、NHK WORLD(2024/2/20)
  • 「こうじ菌、がん細胞死滅仕組み解明 月桂冠など、抗がん剤の研究開発につながる成果」、京都新聞(2023/6/9)
  • 「月桂冠と甲南大、発酵食品に含まれる麹菌由来成分に抗がん作用を発見」、TECH+(2023/6/8)

(掲載日:2024年6月4日)