月桂冠トップ > 知る・学ぶ > 京都・伏見を訪ねる-京都・伏見と徳川幕府 > 「寛永行幸」を支えた伏見の大名藩邸、その後の酒蔵への変遷―伏見から寛永行幸を支えた―
京都・伏見と徳川家康との深い関係「伏見幕府」ともいえる政治の拠点 ▲二条城「二の丸御殿」[国宝]

「寛永行幸」を支えた伏見の大名藩邸、その後の酒蔵への変遷
―伏見から寛永行幸を支えた―

京都・伏見を訪ねる

寛永行幸と、伏見に集った徳川家

1603(慶長8)年、徳川家康が征夷大将軍に任じられ、徳川幕府が開かれました。1605(慶長10)年に徳川秀忠が二代将軍となった後も、家康は大御所として治世にあたります。1607(慶長12)年に家康は政治の拠点を伏見から駿府(静岡)へ移します。それまで伏見に集まっていた諸大名も次第に江戸へ移り、大坂の陣や家康の死去を経て江戸が政治の中心となっていきました。

そのような中、1626(寛永3)年9月6日から10日にかけて、後水尾天皇が二条城へ行幸される「寛永行幸」が行われました。江戸から上洛した大御所・徳川秀忠が中心となって挙行されたこの行幸には、全国から多くの大名が上洛し、京都を中心に大きな動きが見られました。

将軍・徳川家光は淀城に滞在し、尾張藩主・徳川義直、紀伊藩主・徳川頼宣らは伏見に藩邸を構え、行幸を支えました。この間、両藩の伏見藩邸には京都の公家や社寺、上洛中の大名の関係者が多数訪れました。また、1634(寛永11)年の将軍家光上洛時にも同様の賑わいが見られました。その後、江戸時代から明治時代を経て、尾張徳川家の伏見藩邸は月桂冠・北蔵(京都市伏見区下板橋町、現在は賃借中)、紀伊徳川家の伏見藩邸は月桂冠・昭和蔵(京都市伏見区片原町)となりました。

寛永行幸に際して伏見は、京都の市街地を補完する場所として、諸大名や要人が滞在し、文化や交流が行き交う拠点となりました。行幸は、政治的な行事であると同時に、京都とその周辺地域に再び活気をもたらす契機ともなりました。

寛永の時代に創業した月桂冠

寛永という時代は、江戸幕府による新たな秩序が整えられていく一方、京都では文化活動や人々の往来が再び活気を見せ、伏見でも人や物資が行き交い、交通の要衝として再出発を始めた時代でした。月桂冠の創業は1637(寛永14)年。寛永行幸からおよそ10年後のことです。その創業は、そうした時代の人や物流、文化の広がりの中に位置づけられます。初代・大倉治右衛門は、木津川上流の笠置(かさぎ)から伏見へ出てきて、伏見の中心とも言える京橋近くの馬借前に居を構えました。街道と舟運が交わる伏見は、人や物資が集散する交通の要衝であり、酒造りに欠かせない良質で豊富な地下水にも恵まれていました。治右衛門は、故郷にちなみ屋号を「笠置屋」と定め、酒造業を始めました。創業当時から伏見の地下水は酒造りを支え続け、現在も月桂冠の酒造りの源となっています。

「ふしみ」「かさぎや」の銘入り貸徳利 ▲「ふしみ」「かさぎや」の銘入り貸徳利

武家屋敷から酒蔵へ

その後、伏見では明治時代以降に酒造業が大きく発展し、川沿いに立地していたかつての大名藩邸跡の中には酒蔵へと転用される動きもみられました。尾張藩邸跡には月桂冠北蔵、紀伊藩邸跡には月桂冠昭和蔵が整備され、伏見の酒造業発展の一翼を担いました。

吉田初三郎・作『伏見本店景観図』_左隻 吉田初三郎・作『伏見本店景観図』_右隻
▲吉田初三郎・作『伏見本店景観図』(月桂冠株式会社・所蔵) ※写真2枚

昭和初期に制作された吉田初三郎・作『伏見本店景観図』は、二曲一双の屏風であり、伏見城外堀や桃山御陵、伏見稲荷を背景に、本店や白壁の酒蔵群が鳥瞰図として表現されています。屏風には、紀州藩伏見藩邸跡に建てられた昭和蔵を中心に、薩摩藩伏見藩邸跡の大賞蔵、尾州藩藩邸跡の北蔵など、濠川沿いに並ぶ月桂冠の酒蔵群が描かれています。昭和蔵には1927(昭和2)年に建設された日本初の冷房付き鉄筋コンクリート造りの酒蔵があり、1931(昭和6)年稼動のびん詰工場も見ることができます。

このように、尾張、紀伊徳川家の伏見藩邸として寛永行幸を支えた土地は、その後、伏見の酒造業を支える場所へと受け継がれていきました。

寛永行幸が今に伝えるもの

寛永行幸は、江戸幕府と朝廷の関係を構築する歴史的行事であると同時に、京都や伏見に再び人や文化が集まる契機となった出来事でもありました。伏見では、その時代に脚光を浴びた土地や人の流れが、後の酒造業の発展へとつながっていきます。寛永行幸四百年にあたり、地域で営みを続けてきた文化や産業の歴史をあらためて見つめ直す機会となれば幸いです(令和8年=2026年は「寛永行幸」から400年の節目を迎えることから、二条城を中心とする寛永文化ゆかりの場所等において、「寛永文化」への理解を深める展示や催しが開催)。

【参考文献】