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酒のできるまで、酒造工程を俯瞰する 技術的制御の巧さにより高められる品質

酒のできるまで、酒造工程を俯瞰する
技術的制御の巧さにより高められる品質

清酒を知る - 酒造り

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日本酒・味噌・醤油など日本の醸造物は、古くから微生物を利用して造られてきました。日本酒は米を原料として醸造します。原材料を配合するだけにとどまらず、麹菌と酵母という2種類の微生物を働かせ、淡泊な香味を持った米から芳醇な香り、滋味を醸し出すことが特徴です。発酵の工程では、麹による米デンプンのブドウ糖への分解(糖化)、酵母によるブドウ糖のアルコールへの転換(発酵)を同時に進行させる、「並行複発酵」と呼ぶ複雑な方式をとります。

月桂冠の主力製造場、大手蔵▲月桂冠の主力製造場、大手蔵

酒造りの工程

日本酒は、並行複発酵方式により糖化と発酵を同時に進行させるなど、工程が複雑であることから、主原料の米の品種、その特性よりも、どのように酒造技術を生かすかということが品質に大きく影響すると言われています。米の作柄、気候のちがいにより、また同じ原料を配合し同じように仕込んだモロミでも微生物の働き方のちがいでタンクごとの発酵の進み具合が異なります。これらのちがいは、原料処理や発酵など製造工程の各作業ステップでの制御によってカバーすることができます。原料米は、作柄による米の硬軟や成分のちがいに応じて、米洗い・浸漬・蒸米の工程で、水分量の微妙な調整を行います。発酵の進み具合を、温度制御により調整したり、酒しぼりの時期を見極めたりして、製造の工程を進行させていきます。

精米から容器詰まで

精米

酒造用として特別に栽培された酒造好適米のほか、日本晴やコシヒカリなど食用に供される品種も酒造りに用いています。一般酒・普通酒では3割(精米歩合70パーセント)ほど、吟醸酒では4割以上を磨いて使用します。

左から、玄米、精米歩合70パーセントの白米、同50パーセントの白米▲左から、玄米、精米歩合70パーセントの白米、同50パーセントの白米

洗米・浸漬

白米についている糠(ぬか)分を水で洗い落します。ご飯を炊く前に、米を研ぐことと同様です。水に浸す時間は、米の品種や硬軟、精米歩合によって異なります。数分から数時間で、適量の水分を含ませます。

米を浸漬し適量の水を含ませてから水切りを行う▲米を浸漬し適量の水を含ませてから水切りを行う

蒸米

適量の水分を吸水させた米を蒸します。昔ながらの甑(こしき)による方法と、連続蒸米機により米をベルトコンベアの蒸気層を移動させながら蒸す方法があります。


酒米を蒸し 米の蒸し具合を確かめ、適温になったところで次工程へと送る▲甑(こしき)は、言うなれば大きな蒸籠(せいろ)。酒米を蒸し(上)、米の蒸し具合を確かめ、適温になったところで次工程へと送る(下)

麹づくり

麹(こうじ)は、麹菌を穀類に生やし、酵素(こうそ)を分泌させたものです。日本酒では、黄麹菌(きこうじきん、Aspergillus oryzae)の胞子を種麹(たねこうじ)として、蒸した米にふりかけ約2日間培養することで酵素を生産させます。


麹蓋(こうじぶた)を使った麹づくり 自動製麹機(じどうせいきくき)による麹づくり▲麹蓋(こうじぶた)を使った麹づくり(上)と、自動製麹機(じどうせいきくき)による麹づくり

酒母づくり

アルコール発酵を担う酵母(こうぼ)を培養して、大量に増殖させたものが酒母(しゅぼ)です。

電子顕微鏡でみた酵母▲電子顕微鏡でみた酵母

モロミの発酵(並行複発酵)

日本酒になる前の発酵中の状態を「モロミ」といいます。「酒母」「麹」「仕込水」「蒸米」 を発酵タンクに仕込み、およそ20日から30日間かけて発酵させます。発酵タンクの中では、米のデンプンが麹の酵素によりブドウ糖へと分解され(糖化)、そのブドウ糖は酵母によりアルコールへと変えられていきます(発酵)。この糖化と発酵の2つの働きが同時に進行します(並行複発酵)。


モロミの櫂入れ モロミの櫂入れ▲モロミの櫂入れ

酒しぼり 上槽

発酵が終了し熟成したモロミを圧搾して、酒(液体)と酒粕(固体)に分離します。 この操作を上槽(じょうそう)とも呼びます。

圧ろ圧搾機で搾りとられた酒粕をはがす▲圧ろ圧搾機で搾りとられた酒粕をはがす

火入れ

60度から65度ほどの比較的低温で酒を加熱する操作を「火入れ」といいます。加熱により微生物を殺菌すると共に、酒の香味を変質させる酵素の働きを止めて熟成度を調整し、保存性を高める効果があります。「生酒」の場合は、一切、この火入れを行いません。

プレート式熱交換器による火入れ▲プレート式熱交換器による火入れ

貯蔵・熟成

しぼりたての新酒に火入れをした後、貯蔵タンクで6ヵ月から1年間ほど貯蔵します。しぼりたての新酒は、荒々しい味わいや新酒香を持っていますが、貯蔵中の熟成により、まるみのある調和のとれた味わいになります。

圧ろ圧搾機で搾りとられた酒粕をはがす

調合

年間を通じて、いつも安定した品質の日本酒を出荷するために、きき酒で数多くの原酒をひとつひとつ確かめると共に、分析データを参考にして、それぞれの酒の持ち味を生かすよう調合します。

容器詰

びんやパックに酒を詰める工程。容器・製品をセンサーや目視により検査した後、カートンに詰めて出荷します。

つき

【参考・引用文献】
  • 野白喜久雄ほか編 『醸造の事典』 朝倉書店 (1988年)
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