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生酒

「生酒」、鮮度感を楽しむ冷用の酒 
常温流通を可能に、しぼりたてのフレッシュな風味を家庭の食卓で

清酒を知る - さざまな酒のタイプ

生酒としぼりたて

「生酒」(なまざけ)は、「火入れ」と呼ぶ60℃ほどの加熱処理を一度もしない酒です。しぼりたてのフレッシュな香味を楽しむ酒で、冷やして飲むのに適しています。「生酒」(常温流通可能な商品)の賞味期間は、製造年月から約8ヶ月と設定しています(月桂冠の場合)。
一方、「生貯蔵酒」(なまちょぞうしゅ)は、生酒の状態で貯蔵し、容器詰めの際に1度だけ火入れをするものです。

生酒、生貯蔵酒のできるまで

古来、日本酒は神祭りや客を迎えるたびに造られ、飲み残すとすぐにすっぱくなり、味も香りも悪くなったので、その場で飲み干してしまう「待ち酒」でした。これが「生酒」のルーツです。その後、室町時代末期以降、火入れが行われはじめ、さらに江戸中期には寒造りが定着したこともあって、生酒を飲まれることが少なくなり、結果、火入れをした酒が主流となりました。
しかし近年、酒蔵で飲んだしぼりたての日本酒を楽しみたい、夏場に冷酒を楽しみたいなどの声を受け、再び生酒が商品化されるようになりました。

昭和初期のチラシ▲すでに月桂冠では、1934年(昭和9年)6月1日、「冷用」を謳ったびん詰清酒を発売していた。冷用酒をアピールする昭和初期のチラシには、「冷用美酒月桂冠は、最新式冷凍装置の昭和蔵で、月桂冠イースト(酵母)によって新たに夏向きのお酒として醸出せられた純粋の生一本。実に待望久しき冷用酒、美味芳烈…」と熱のこもったコピーが見られる。「召し上がり方」は「井戸に釣るか、冷蔵庫へ」とし、「御下物(酒肴)は別に要らないが、果物などは結構でございます」と斬新な楽しみ方も紹介されていた。別のチラシには、床几(しょうぎ)の上で冷酒を楽しむ様子が描かれている

生ビールに相当するのは生酒?生貯蔵酒?

ビールの場合、「生ビール」と表示できるのは、熱処理をしていないものに限られ、「ビールの表示に関する公正競争規約」では<熱による処理(パスツリゼーション)をしないビールでなければ、生ビール又はドラフトビールと表示してはならない>と定められています(日本国外では、樽から注いだビールを「生」とするなど異なる定義も見られます)。

日本酒では「生ビール」に相当するものとして「生酒」があり、「清酒の製法品質表示基準」には、<一切加熱処理をしない清酒>とされています。一方、「生貯蔵酒」は<加熱処理をしないで貯蔵し、製造場から移出する際に加熱処理した清酒>とされています。

ビール 生ビール
及びドラフトビール
熱による処理(パストリゼーション)をしないビールでなければ、生ビール又はドラフトビールと表示してはならない。(ビールの表示に関する公正競争規約)
日本酒 生酒 製成後、一切加熱処理をしない清酒である場合に表示できるものとする。(清酒の製法品質表示基準)
生貯蔵酒 製成後、加熱処理をしないで貯蔵し、製造場から移出する際に加熱処理した清酒である場合に表示できるものとする。(清酒の製法品質表示基準)

「酵素」による酒質の変化

日本酒は通常、酒をしぼって貯蔵する前と、容器詰めの際との2度、60度ほどの熱をかける火入れを行うことで酵素の働きを停止させ、酒質の変化を防止します。その間、半年~10ヶ月ほどの貯蔵熟成を経ることで、華やかなしぼりたての香味から、だんだん丸みのある調和のとれた味わいへと、おだやかに変化していきます。
火入れをせずに、しぼったままの状態で貯蔵すると、時間が経つにつれて、麹菌がつくった酵素の働きにより酒中の糖分、タンパク質が分解され、甘味が増し「甘ダレ」となり、また不快な「ムレ香」が生じます。たとえ冷蔵保存をしていても酵素は働いて大幅に酒質を変化させます。

火入れをせずに品質を保つ生酒の製造技術

生酒の場合は火入れをしないため、商品化にあたっては酒質の変化を防ぐことが必要です。そのため生酒は、近年開発された高度なろ過技術の活用、クリーンルーム(無菌室)でのびん詰により製造されています。月桂冠では、ミクロフィルターを用いた精密ろ過(100万分の1メートル相当)により、酵母や火落菌を除去し、さらに、ウルトラフィルターを用いた超精密ろ過の「限外ろ過」(1億分の1メートル相当)によって常温流通が可能な生酒を実現しました。限外ろ過によって、酒中の酵素を90パーセント程度まで取り除くことで、酒質の変化を少なくして、しぼりたての香味を保持し、保存期間を大幅に延長できます(ただし、常温流通可能な生酒でも、通常の酒と同様、冷暗所で保存するなど、ていねいに取り扱うことが必要です)。

超精密ろ過技術▲超精密ろ過技術の応用により「生酒」の常温流通を可能にした。縦のパイプの中に、何本も束になった細いチューブ状の膜がある。この限外ろ過により、酒質を変化させる酵素を取り除く

月桂冠生酒の開発と商品化

日本で本格的に生酒を商品化したのは月桂冠で、1981年(昭和56年)、チルド(保冷)流通を条件に「生原酒」を地域限定で発売したのが最初です。さらに月桂冠では、1984年、超精密ろ過技術の応用により、日本酒で初めて常温流通が可能な「生酒」を発売しました。
酒蔵でしぼりたての新酒を試飲された方からは、一様に「おいしい、このような酒をぜひ市販してほしい」と言われてきました。超精密ろ過技術の確立によって、安定した品質の生酒をお届けできるようになり、蔵元でしか味わえなかった、しぼりたてのフレッシュな風味を持つ日本酒が、家庭の食卓や飲食店で手軽に楽しめるようになりました。

1980年代の生酒商品群▲1984年、超精密ろ過技術の応用により日本酒で初めて常温流通が可能な「生酒」を発売(1980年代の生酒商品群)

月桂冠では、1992年に「生貯蔵酒」も発売し、以来、小容量びん詰めでレギュラークラスの生酒と生貯蔵酒を並行して販売してきました。2014年3月には、「生酒」(280ミリリットルびん)を一新して発売したことを機に、レギュラークラスの生酒・生貯蔵酒を「生酒」に一本化し、しぼりたての鮮度感が味わえる点を訴求しています。