酒の神様
酒造家が尊崇する酒造りの守り神
酒の文化を知る - 神事と酒宴
大神神社(おおみわじんじゃ、奈良県)、松尾大社(京都市西京区)、梅宮神社(京都市右京区)は、特に酒造家から尊崇される酒の神様として知られています。毎年11月初旬には、新酒の仕込みを前に醸造安全を祈願し、4月には醸造完了感謝のお礼参りに蔵元関係者や杜氏らが打ち揃って詣で、玉串を捧げます。科学技術を取り入れて高品質の酒が造られる現代においても、安全や繁栄の拠りどころとして、神仏への祈りと感謝は欠かせないものとなっています。
松尾大社
松尾大社(京都市西京区嵐山宮町3)は、京都盆地の西一帯を支配していた秦氏により、西暦701年(大宝元年)創建された京都最古の神社です。渡来人の秦氏に酒造りの技能者が多く見られたことから、室町時代末期頃から「酒造第一祖神」として崇拝されるようになりました。
▲松尾大社の参道正面大鳥居の横には、大きなお神酒徳利が2本。酒の神を象徴するかのようだ。名勝・嵐山から至近
「大山咋神」(おおやまくいのかみ)が第一の御祭神で、弓矢の神、戦の神であったことから、下鴨神社、上賀茂神社とともに皇城守護の神として崇拝されてきました。本殿は室町時代に建てられた松尾造りと呼ばれるもので、神像3体とともに重要文化財に指定されています。もともと本殿の背景にそびえる松尾山の頂上近くに鎮座していた神様でしたが、秦氏がふもとの社に神様を移しました。
毎年、醸造祈願の「上卯祭」(じょううさい、11月上卯日)、醸造完了感謝の「中酉祭」(ちゅうゆうさい、4月中酉日)が行われ、蔵元関係者、杜氏らが詣でます。境内の石燈篭の9割は京都、滋賀、大阪などの醸造業者が寄進したもので、古くは江戸時代初期のものが見られます。酒造家は神泉「亀の井」の水をいただき、仕込み水の一部に混ぜることが習慣となっています。この水は、茶道や書道にも用いられるほか、長寿にも効き目があるといわれています。
境内には「お酒の資料館」が設置され、各地の酒造メーカーが寄贈した酒造用具や酒器が展示されています(午前9時から午後4時まで、入場無料)。
▲松尾大社は、酒を飲む人、売る人、造る人、酒に関わる全ての人たちの守り神。「服酒守」「販酒守」「醸酒守」が授与されている
梅宮大社
梅宮大社は、酒解神(さけとけのかみ)、酒解子(さけとけのみこ)を主神とした酒の神をまつる神社で、京都市右京区の桂川の東、四条通りの北側に位置しています(京都市右京区梅津フケノ川町30)。もともと、京都府南部の綴喜郡井手町にあった橘氏の氏神を平安遷都と共に現在の場所へ移したとされています。松尾大社と同様、11月上卯の日に「醸造安全繁栄祈願祭」(上卯祭)、4月中酉日に「献酒報告祭」(中酉祭)が行われ、酒造関係者らが参拝しています。
本殿の側にあり、古くから伝わる「またげ石」と呼ばれる2つの丸い石をまたぐと子宝に恵まれるといわれています。嵯峨天皇の皇后がこの石に祈願したところ、のちの仁明天皇を授かったという伝えから、子宝・安産の神社としても信仰を集めています。
▲梅宮大社
大神神社(おおみわじんじゃ)
日本で最古の神社と言われる大神神社(奈良県桜井市三輪)は、酒造りの神様として全国に知られ、酒造家たちの厚い信仰を集めています。酒の二大神である、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)と少彦名神(すくなひこなのかみ)を祀っており、また、本殿北側にある活日(いくひ)神社には杜氏の祖と言われる高橋活日(たかはしいくひ)が祀られています。
毎年11月14日には新酒の醸造安全祈願大祭が執り行われます。新酒の仕込みの季節を迎え、全国の酒造家や杜氏たちが醸造安全祈願にやってきます。この日、拝殿向拝に吊られている大きな杉玉が、新しく取り替えられます。「志るしの杉玉」(酒林=さかばやし)は、酒屋の看板とも言われます。酒造家は三輪山の神杉の葉を球状に束ねて作られた小型の杉玉を持ち帰り、新酒ができたしるしとして軒先に吊るします。
大神神社の御神体は三輪山であり、神社には拝殿が設けられているだけで本殿はありません。拝殿の奥には鳥居を3つ組み合わせた独特な形の「三つ鳥居」が建てられ、この鳥居を通して御神体の三輪山を拝することができます。
三輪山は昔から神聖な山として、木一本、石ひとつにまで神が宿るとして崇められ、無断で入山することが禁じられています。特に拝殿うしろの三つ鳥居の辺りから一帯の区域は禁足所とされています。
- 【参考文献】
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- 加藤 百一 「神事における酒」『日本の酒の文化』 社団法人アルコール健康医学協会(1996年)
- 大神神社 『酒の神様・三輪明神』
- 大神神社 『大和なす大物王の醸みし御酒』
- 中山和敬 『大神神社』 学生社(1971年)