手づくり
微生物を手助けして、うまく働かせることが造り手の役割
清酒を知る - 清酒産業
「手造り」とは、機械を使わず人間の手でものをつくることを意味しています。同様に用いられる言葉に「手漉き」「手織り」「手料理」があります。日本酒についても過去に「手造り」の定義を検討されましたが、結局、実現に至りませんでした。
▲自動製麹機(じどうせいきくき)による麹づくり
定義できなかった日本酒の「手造り」
日本酒の「手造り」については、かつて日本酒の中央団体・日本酒造組合中央会の「表示に関する自主基準」(1975年)に定められていました。それによると、「手造りの表示ができるのは甑、麹蓋(麹蓋に代わる箱を含む)を使用し、生もと(きもと)系または普通速醸酒母を造り製造した清酒で、本醸造等の文字を使用できるものに限る」とされていました。業界では、この表示方法を公正取引委員会との間で決める「公正競争規約」に盛り込もうとしていましたが、実現には至りませんでした。
その後、1989年(平成元年)に中央酒類審議会が、「吟醸酒」「純米酒」などの呼称を商品に表示するための原料・製造方法などの条件を定めた「清酒の製法品質表示基準」を答申し、国税庁の告示により1990年(平成2年)4月から実施されました。これを決める際にも、「手造り」の定義として甑や麹蓋、生もと(きもと)、速醸などに製法を限定することは適切かどうかが検討されましたが、ふさわしくないとの結論に至り、それまで自主基準で用いてられてきた「手造り」の項は削除されました。
▲酒造りで活躍する微生物(麹菌=上、酵母菌=下)
日本酒は微生物の働きによって造られる
「手造り」を、甑(こしき)や麹蓋(こうじぶた)といった昔ながらの道具を用いる製法に限定することには無理があります。もし、そのように製法を限定するならば、精米には水車を使い、発酵容器には木桶を、燃料には薪を用いることにもなってしまいます。
日本酒は本来、麹菌や酵母菌という微生物の働きによって造られるものです。言うなれば人間はその手助けをしているに過ぎません。昔ながらの手立てで造ろうと、機械を用いようとも、その本質はいかに微生物をうまく働かせるかということです。これらのことから日本酒は、自ら手を下してつくる一般的な「手造り」商品とはその意味が異なります。
手造りでも機械活用でも、根本的な品質差はない
人類が出現してから今日まで、さまざまな道具・機械が考案され、それによって文明が発達し、文化が育まれてきました。酒造りにおいても同様で、ものづくりの手段や方法には、時代と共に新たな技術や用具が取り入れられ、常に変化を繰り返しながら発展してきたことは、その歴史を見れば一目瞭然です。
酒造りに用いる道具が手動のものであろうと、機械式であろうと、目的とする酒質を造るため如何に微生物を働かせるかと言うことが品質の良し悪しを左右します。事実、旧来の手法で造った日本酒と、新たな技術を駆使して造った日本酒とを比べてみても、根本的な品質の差は見られません。伝承技術であろうと先端技術であろうと、誠意を込めて、造り手の心の温かみが感じられる酒を造ることが大切です。
- 【出典】
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- 月桂冠株式会社・社内誌『さかみづ』156号(1995年2月)