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明治末期頃の菰冠と「吟醸」の焼印▲明治末期頃の菰冠と「吟醸」の焼印 明治末期頃の菰冠(写真後方)や、酒樽を包む藁菰(わらごも)へ押すための焼印に「吟醸」の文字が見られる。「吟醸」の焼印は縦18センチ、横12センチ、柄の長さ40センチ、重さは5キロ(月桂冠大倉記念館・蔵)

「吟醸」のあゆみ
特別に吟味して醸造する酒として、長年かけ洗練

清酒を知る - 清酒産業

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華やかな香りと淡麗な味わいを特徴とし、高級酒の代名詞ともなった吟醸酒。「吟醸」という言葉の始まりを調べた文献によると、すでに江戸期の酒樽などで「吟造」の文字が見られ、明治期の文献には「吟醸酒」「吟醸物」の記述を見ることができます。各蔵が品評会への出品を目指して酒造りの技を高める中で、吟味して醸造した酒を意味する「吟醸」という言葉が普及し、今では、その名を冠した商品も多数みられるようになりました。

「吟醸」のいわれ

「吟醸」とは吟味して醸造した酒という意味合いで明治時代中頃から使われはじめた言葉です。
元醸造試験所長の秋山裕一氏らが「吟醸」の初見を調査されています。

  • 江戸時代末期の酒樽の図や焼印雛型に「吟造」の文字が記されている。
  • 明治27年(1894年)、新潟県の酒造家、岸五郎氏が著した『酒造のともしび』に「吟醸」の文字が見られる。
  • 明治39年(1906年)発行の『醸造協会誌』(第1巻、第8号)に「吟醸酒」の文字が見られる。
  • 明治42年(1909年)発行の『醸造試験所報告』(26、27巻)に掲載された、大蔵省の技官・鹿又親(かのまた・ちかし)氏の調査記録に「吟醸物」の記述が見られる。

「吟醸」の言葉は、明治時代、各地の酒造家が清酒品評会への入賞を目指して、精米・浸漬など原料処理、水質に合った仕込み、発酵管理など、酒造りの技を高めていく過程で普及していったと考えられています。品評会は明治20年代に各地で相次いで始まりました。京都では明治22年(1889年)、伏見の酒造家が品評会を開き、35社が出品したとの記録があります。明治40年(1907年)、日本醸造協会の主催で始まった「全国清酒品評会」(第二次世界大戦後は1952年から日本酒造組合中央会の主催で隔年開催、1960年終了)や、国の醸造試験所主催で明治44年(1911年)始まった「全国新酒鑑評会」(独立行政法人酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が共催)など、全国規模のコンテストも行われるようになりました。

吟醸造り技術の進展

昭和5~6年(1930~1931年)頃には竪型精米機(たてがたせいまいき)が登場、玄米を外側から40%~50%削り取る高度な精米(精米歩合60%~50%)が可能となりました。これにより玄米の表面に含まれる脂肪やタンパク質が取り除かれ、でんぷん質を中心にした白米で酒を造ることができます。その後の研究で、米の脂肪が分解してできる不飽和脂肪酸が、吟醸香の一つ、酢酸イソアミルの生成を妨げることが確かめられています。米粒の表層部分に多い脂肪を精米により取り除くことで不飽和脂肪酸を少なくして、香りの高い酒を造ることができるのです。

昭和28年頃、吟醸酒造りに適した酵母として、リンゴやバナナ様の香りをバランスよく作り、発酵力にすぐれた協会9号酵母が見出されました。 昭和40年代になると、吟醸造りの研究や技術開発に取り組むメーカーも除々に増え、吟醸酒の品質も向上していきました。協会9号酵母が全国の酒蔵で使われるようになったのは昭和43年からです。低温で長期間かけてじっくり発酵させることによって、華やかな吟醸香を持つ日本酒が誕生していきました。しかし、できた酒はもっぱら品評会用にごく少量造られたもので、市販はされませんでした。

蒸米

商品化、表示基準として定着

昭和50年(1975年)、日本酒造組合中央会の「清酒の表示に関する基準」で製造方法による表示区分が実施され、市場にも吟醸酒が現われ始めました。 平成2年(1990年)には「清酒の製法品質表示基準」によって、「吟醸酒」と表示できる要件として、「精米歩合60%以下(玄米を外側から40%以上削る)の白米を使い、吟醸造りをし、吟醸酒固有の香味、色沢が良好なもの」と定められました「吟醸造り」とは、低温(5~10度ほど)で長期間(およそ30日以上)発酵させるなど、特別に吟味して製造することを指します。
現在では「吟醸酒」の言葉も定着し、各蔵元から数多く商品化されるようになっています。吟醸酒に関する研究開発の進展、吟醸造りの技術の洗練は、他の酒造りにも影響し、酒質をよくするもとになっているのです。

【参考文献】
  • 秋山裕一 『日本酒』 岩波新書 (1994年)
  • 秋山裕一 「吟醸造りと品評会の歴史から(その1)」 『日本醸造協会誌』 第94巻、第7号 (1999年)
  • 秋山裕一 「吟醸造りと品評会の歴史から(その2)」 『日本醸造協会誌』 第94巻、第8号 (1999年)
  • 池田明子 『吟醸酒を創った男―「百試千改」の記録』 時事通信社 (2001年)
  • 大内弘造 『なるほど!吟醸酒づくり―杜氏さんと話す』 技報堂出版 (2000年)
  • 篠田次郎 『日本の酒づくり―吟醸古酒の登場』 中公新書 (1981年)
  • 篠田次郎 『吟醸酒への招待―百年に一つの酒質を求めて』 中公新書 (1997年)
  • 篠田次郎 『吟醸酒誕生―頂点に挑んだ男たち』 中公文庫 (1998年)
  • 伏見酒造組合 『伏見酒造組合一二五年史』 (2001年)
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