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竣工当時の大手一号蔵(1961年)▲竣工当時の大手一号蔵(1961年)四季醸造と新規醸造法の活用

四季醸造と新規醸造法の活用
海外生産への技術移転、そして酒文化を世界に(現代)

酒の産業を知る - 日本酒造史

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醸造試験所の設立目的の中に「清酒醸造の方法を改良すること」「四季醸造の途を拓くこと」の2項目もあげられていました。このため、明治末期から大正初期年かけ、試験所や業者によって幾多の四季醸造テストが行われましたが、いずれも成功せず、四季醸造は「酒屋の夢」と化していきました。
第二次世界大戦後、経済全般の急激な成長と構造変化とによって、将来、杜氏が不足する事態が予想され、四季醸造の必要性は再びよみがえりました。

年間を通じての酒造りを実現

1961年(昭和36年)、酒造メーカー「月桂冠」は全国にさきがけて、先端技術を駆使した四季醸造蔵を完成、新しい醸造システムを確立、さらに精密で正確な管理方法を開発その再現性を高めました。この技術開発は、江戸時代以来の寒造り体制を一変させ、業界の内外に大きな波紋を投げかけました。最近、杜氏不足はいよいよ現実のこととなり、約2000社ある全国の酒造メーカーは大きな転換期を迎えています。

発酵タンク

もともと年中造られていた酒

日本酒はもともと、神祭りなどが行われるたびに、年間を通じて造られていました。それが、江戸期のなかば頃より、米不足による酒造制限や、農閑期の出稼ぎによる杜氏制度の定着もあり、寒造りへの集中化が進み、現在でも冬場の酒造りが主流となっています。一方、ビール産業では、すでに明治期から外来の技術により年間を通して醸造されていました。
日本酒の寒造りの場合は、一年のうちに3から4カ月ほどしか操業されないことになります。その点、四季醸造システムでは常に温度や湿度が一定になるよう調整することで、年間を通して精緻な酒造りが可能です。日本の冬は、日によって気温の上下があり、暖冬が続くこともある点でも、気象に左右されずに酒造りができる四季醸造システムは有利です。
現在でも多くの酒蔵が寒造りを行っていますが、一部には、規模の大小に関わらず、年間を通して造る酒蔵もあります。四季醸造によって、季節や催事に合わせた酒の供給もできるようになり、夏場にも、しぼりたての生酒を冷やして楽しむことが可能になりました。

アメリカでの酒造りへ技術移転

気候の変化に左右されず酒造りができる四季醸造システムは、海外など異なる環境での酒造りを可能にするものとも言えます。月桂冠では、日本で培ってきた四季醸造システムやその後開発した新規技術を、アメリカ(米国月桂冠株式会社)での酒造りへ移転することに成功しました。米蒸し・麹づくり・もろみ搾りなどを機械化・自動化・連続化した装置と、温度・湿度・微生物の科学的管理により、日本と異なる環境でも酒造りができるようになりました。日本の食文化の一つとして、世界の人々に日本酒を楽しんでいただくために、 月桂冠本社(日本)と米国月桂冠との両輪で、年間を通じて世界各地へ、多彩な商品の供給に努めています。

米国月桂冠(アメリカ・カリフォルニア州)の発酵タンクと醸造棟▲米国月桂冠(アメリカ・カリフォルニア州)の発酵タンクと醸造棟

【参考・引用文献】
  • 栗山一秀 「世界の酒―その種類と醸造法,歴史と本質と効用―」 『アルコールと栄養』 光生館 (1992年)
    ※<年間を通じての酒造りを実現>の項のみ。
    ※本文は著者の了承を得て、敬体の文に変え掲載しています。
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