日本の醸造食品を支える「麹」(こうじ)とは
うまみ、甘みを産み出すもとになり、酒を決める重要な工程
清酒を知る - 酒造り
麹(こうじ)は、麹菌(醸造食品の製造用に培養されたカビの一種)を穀類に生やし、酵素(こうそ)を分泌させたものです。日本酒・焼酎・しょうゆ・みそなど発酵食品の醸造に用いられます。
日本酒では、黄麹菌(きこうじきん、Aspergillus oryzae)の胞子を種麹(たねこうじ)として、蒸した米にふりかけ約2日間培養することで酵素が生産されます。麹菌の繁殖に応じて繊細なコントロールが要求される、酒造りにおいて重要な工程です。
モロミの発酵工程では、麹に貯えられた酵素の力で米のデンプンを分解し、アルコール発酵に必要なブドウ糖を供給します。同時に、米のタンパク質も酵素によってアミノ酸へと分解され、酒の風味を形成します。
もやし
酒造りに用いる麹菌のことを、「種麹」(たねこうじ)や「もやし」と呼びます。黄麹菌(きこうじきん)を、木灰をまぶした蒸米の上でよく繁殖させた後、胞子を選別して乾燥させたものです。
米に、もやもやとカビが生えた状態を意味する「よねのもやし」という言葉が、平安時代の宮中儀式や制度を規定した『延喜式』(えんぎしき)に記されおり、種麹を用いた酒造りが、すでに当時始まっていたことをうかがわせます。
平安時代から室町時代にかけては、朝廷や幕府から公認された麹座(こうじざ)と呼ぶ専門業者だけが「もやし」を製造し、醸造元に卸していました。現在も種麹を商う専門業者が存在し、麹座による麹販売のなごりが見られます。
▲黄麹菌(きこうじきん、Aspergillus oryzae)の胞子
麹菌のつくる酵素
麹菌は増殖する際に、さまざまな酵素を生産します。酵素は、生き物の体内でつくられるタンパク質の一種で、物質を分解したり、くっつけたりする仲立ちをするものです。 「酵素」は「酵母」と混同しやすいのですが、「酵素」は数百のアミノ酸がつながってできた生命を持たない物質であり、「酵母」はアルコール発酵を担う「生物」です。
日本酒・焼酎・しょうゆ・みそなど、醸造食品の種類によって異なる麹菌を使います。日本酒の醸造にはデンプンを糖に分解する酵素力の強い麹菌を、しょうゆ・みそにはタンパク質を分解し、うま味成分となるアミノ酸をつくる酵素力の強い麹菌が使われます。
▲麹蓋(こうじぶた)を使った昔ながらの麹づくり
▲自動製麹機(じどうせいきくき)による麹づくり
日本酒の醸造に関係する主な酵素
デンプン分解酵素(アミラーゼ)
デンプンの化学構造は、いくつものブドウ糖が鎖のようにつながった構造です。デンプンをブドウ糖へと分解する酵素を「アミラーゼ」といいます。デンプンの分解のされ方により、「液化型アミラーゼ」(α-アミラーゼ)、「糖化型アミラーゼ」(グルコアミラーゼ)などがあり、それぞれ働きが異なります。「液化型アミラーゼ」は、デンプンを構成するブドウ糖が数個つながった「オリゴ糖」まで大まかに分解する酵素です。「糖化型アミラーゼ」は、デンプンやオリゴ糖を、ブドウ糖単位に細かく分解する酵素です。酵母は主にブドウ糖を取り入れることでしかアルコール発酵ができないことから、「糖化型アミラーゼ」の強さが発酵の速度に関係します。
タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)
タンパク質を分解する酵素を「プロテアーゼ」といいます。タンパク質の分解のされ方により、「プロテイナーゼ」「ペプチダーゼ」などがあります。「プロテイナーゼ」(エンドペプチダーゼ)は、タンパク質を構成するアミノ酸が数個つながった「ペプチド」まで大まかに分解する酵素で、「ペプチダーゼ」(エキソペプチダーゼ)はアミノ酸の単位に切断する酵素です。タンパク質が分解されてできたアミノ酸は、清酒の味の主成分となります。
- 【参考・引用文献】
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- 小泉 武夫 『麹カビと麹の話』 光琳テクノブックス 1 (1984年)