造り手やブレンダーは、酒の良しあしをどのように判断しているのか?
きき酒による品質の評価
清酒を知る - 酒造り
酒の香味を確認するために、製造工程ではモロミ発酵・酒しぼり・貯蔵・調合など各段階、容器詰後の商品で、「きき酒」による官能検査を実施しています。測定機器による成分分析値は品質の一側面を表しますが、総合的な品質評価は、最終的に人間の感覚による官能審査によって決めます。
きき酒の手順としては「色」「香り」「味」の順序で、この3点がよく調和しているかどうかを確認します。
酒の種類ごとに、よい酒を数多く試しながら、タイプごとの標準品となる香味を覚えることで、判断の基準とすることができます。
きき酒と品質
日本酒の品質について、「吟醸酒は良い酒、普通酒は品質が劣る」など、製造の区分によって優劣を区別する意見を聞くことがあります。この考え方には落し穴があります。いかに良質の原材料を使ったとしても、また吟醸造りのように手のこんだ精巧な造り方をしたとしても、必ずしも良い酒ができるとは限りません。酒の良否を左右する最大の要因は、麹菌・酵母という2種類の微生物の活動をいかにコントロールするかにかかっているからです。
日本酒には甘味、酸味、苦味を感じる物質など、200種以上もの呈味物質が確認されています。これら多くの成分がバランスをとりながら相互に影響しあい、複雑で微妙な香味となって官能に感じられます。人間の官能による判定では、ややもすると個人差や感覚の不安定さによる誤差が伴いやすいものです。そこで、官能検査に代わる判定はできないものかと、測定装置が開発されてきましたが、まだ完全とは言えません。人間の官能では感じても、分析値としては計測されていない微量成分も数多く存在しています。さらに物質によっては、なお人間の感度の方が優れているものも多いのです。
きき酒の方法
きき酒の準備
きき酒は、室温20度程度、静かで換気のよい、北窓に向いた場所で行います。酒の温度も20度が標準。15度以下では感覚が鈍ります。そのため、加温して行う「熱酒きき」という方法もあります。
きき酒の手順
きき酒は「目」「鼻」「口」の順序で行います。「色」「香り」「味」の3点がよく調和しているかどうかをききわけます。
- まず、きき猪口に八分目ほど酒を注ぎ、「色」「冴え」などを観察する。
- きき猪口を軽く動かして鼻に近づけ、小刻みに香りをかぎ、香りの性質や強さをみる。
- 5ミリリットルほどを口に含み、すするように舌の上でころがし、舌の全面で味をみる。
口から吸いこんだ空気を鼻から抜きながら、口中香(ふくみ香)をみる。 - 口に含んだ酒を吐き出し、その後味をみる。
- 評点や感想など記録をつける。
きき酒の上達法
酒の種類ごとに、よい酒を数多く試して、その特徴を記憶していきます。タイプごとの標準品となる香味を覚え、自家薬籠中のものとして身につければ、判断の基準とすることができます。
きき酒の注意事項
きき酒をする前は、甘いもの、香りの高いもの、刺激の強いものなどを食べたり身につけたりすることは避けた方がよいとされています。しゃべりながらのきき酒は周囲の人たちの迷惑になり、香り・味の判断もしにくくなります。
▲月桂冠総合研究所に備えられた化学分析装置
酒の品質評価には、化学分析に加え、きき酒による官能審査を行うことが必要です。官能審査をより信頼度の高いものにするため、個人差や感覚の不安定さによるエラーをできるだけ少なくするような科学的手法の研究が続けられています。